学生時代、演劇に夢中だった友人が本気で芝居をやりたいと劇団四季の面接を受けた◆腕組みした浅利慶太さんから「役者で食えなかったらどうする」と問われ、「アルバイトしてでも…」。途端に「甘い!」と一喝され、その迫力にすくんでしまったという。もちろん、入団通知は来なかったが、「役者で飯を食う」ことの厳しさを教えてもらった友人は大学卒業後も都内の小劇団で演劇を続けた◆浅利さんは若い練習生たちに必ずこう言ったそうだ。「この世は不平等だと思え」。世の中すべて平等であるべきだ-と考え出したら、「なんで自分が…」と役づくりに不平が出て稽古に集中できない。義務を果たすことはさておいて、権利意識ばかりへの叱責(しっせき)か◆もう一つは「自分だけの時計を持て」。これは、生き方の“モノサシ”、つまり自分らしい生き方をしろ-ということだろう。自分がどう生きるか、どうしたいかではなく“隣”ばかりが気になる。横並び意識から逃れられない甘い者たちへの戒めである◆舞台芸術の世界で全力疾走してきた浅利さんが亡くなった。演出した舞台「ライオンキング」「キャッツ」「オペラ座の怪人」など誰でも知っている。日本にミュージカルの礎を築いただけでなく、演劇人の枠を超えて政財界にも広い人脈を築いた85年、思う存分の生涯だった。(賢)

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