「『この味がいいね』と君が言ったから七月六日はサラダ記念日」。30年ほど前、日常の話し言葉を巧みに操った俵万智さんの登場に衝撃を受けた人は多いだろう◆だが、2009年1月、26歳の若さで逝った有田町の歌人笹井宏之さんの作品は衝撃と言うより、ハッとするほど心を揺さぶった。笹井さんが本紙読者文芸欄に投稿を始めたのは2004年10月。以来、亡くなる直前まで投稿を続け、選ばれた秀作は200首以上◆「葉桜を愛でゆく母がほんのりと少女を生きるひとときがある」「風。そしてあなたがねむる数万の夜へわたしはシーツをかける」「冬ばってん『浜辺の唄』ば吹くけんね ばあちゃんいつもうたひよつたろ」◆どの歌に触れても、こんな心優しき歌詠みの青年が、この佐賀にいるのかと思った。難病を患い、やむなく高校を休学。療養生活の中でひたむきに短歌を詠んだ。その作品の透明感、みるみる間に中央歌壇からも注目された。しかし、可能性を秘めたまま帰らぬ人に◆そんな笹井さんを顕彰、新しい才能を発掘しようと、笹井さんの歌集を刊行してきた出版社「書肆侃侃房(しょしかんかんぼう)」(福岡市)が「笹井宏之賞」を創設、作品を募っている。「花冷えの竜門峡を渡りゆくたつたひとつの風であるわれ」。夭折(ようせつ)の歌人の魂が今またよみがえるようでうれしい限りである。(賢)

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