ミニ新幹線の山形新幹線「つばさ」=山形駅

 「ヒュン」。白と青を基調にした車体が高架の上を滑らかに走る。車窓から見下ろす風景が瞬く間に遠ざかる。それが一転、「ガタンゴトン」。レールの継ぎ目を刻みながら住宅の真横をすり抜け、左右に揺れ始めた。同じ新幹線が見せる全く別の顔-。九州新幹線長崎ルートの整備方式を巡り、フリーゲージトレインの代替案として全線フル規格とともに浮上したミニ新幹線。国内で初導入し、1992年からほぼ四半世紀運行されてきた山形新幹線に乗り、実情を探った。(栗林賢)

 平日朝の東京駅。発車時刻10分前、ホームに山形新幹線「つばさ」7両と仙台行き「やまびこ」10両が連結されて入ってきた。フル規格区間だけ走るやまびこの座席は1列に5席だが、福島駅で分離後、在来線区間も走るつばさは4列。車体も一回り小さい。

 ミニ新幹線は、在来線区間の線路幅を新幹線区間の幅に広げることで乗り換えなしの直通運転を可能にする。走るのは特急サイズの車体に新幹線幅の車輪を付けた特別な車両だ。

 東北新幹線ルートを北上し、大宮駅を過ぎると一気に加速する。最高時速は275キロ。車内は静かで走りも滑らかだ。車内販売サービスもあり、新幹線に乗っている実感が湧いてくる。

住宅地や畑の脇 在来線区間に入ると乗り心地は激変する。時速は130キロ程度に落ち、住宅地や畑の脇を走り抜ける。これまで一つもなかった踏切が50ほどある。「この先カーブが連続し、左右に大きく揺れます」。注意を促すアナウンスが流れ、揺れ始めた。この区間は通勤通学の足としてローカル線も走るが、車輪はいずれも新幹線規格の幅に広げている。

 米沢駅の手前にある急勾配の板谷峠。車掌に尋ねると時速60キロで登るという。部分的に単線で、すれ違うために止まるときもある。新鳥栖-武雄温泉間よりかなり線形が悪く、徐行運転が続く感覚だ。長崎線の特急「かもめ」の方が乗り心地は良いくらいだ。

 東京から約2時間半かけて山形駅に到着すると「本日は山形新幹線特急つばさをご利用いただきありがとうございました」とアナウンス。新幹線なのか。特急なのか。駅員が教えてくれた。「山形新幹線は県民から募集した愛称。ミニ新幹線は法的には在来線ですよ」

 山形県の吉村美栄子知事は2期目の公約の一丁目一番地に山形新幹線の全線フル化を掲げる。なぜミニ新幹線では駄目なのか。県総合交通政策課の松澤勝志課長は「フル規格に比べて速達性、定時性、安定性に課題を抱える」と強調した。

野生生物と衝突 在来線区間を走る山形新幹線はカモシカやクマなど野生生物との衝突に加え、雪や雨の災害で過去5年間に1日平均0・5~1本が運休・遅延した。高架を走り、踏切のないフル規格に比べ、走行100万キロ当たりの輸送障害件数は約33倍(2016年度)に上る。

 速達性では「東京から山形まで最短2時間26分かかっているが、全線フルになれば2時間を切り、人の流れを呼び込める」。松澤課長は地域間競争の切り札として位置付ける。

 なぜ最初から全線フルで整備しなかったのか。福島から山形、秋田へ向かう奥羽新幹線は、長崎ルートを含む整備計画5路線の前段の基本計画路線。「数十年以上待つしかない中、選択肢はミニ新幹線しかなかった」と課長は振り返った。

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