講師の326さん(右)にプレゼンテーションを行う参加者=佐賀市大財のジョイフル佐賀店

 県が「藩校・弘道館を現代に」と展開している企画「弘道館2」の6時間目が6月9日、佐賀市大財のジョイフル佐賀店であった。講師は同店で仕事をする佐賀市出身のイラストレーター326さん。「夢学」をテーマに、326さんが夢を実現させる第一歩として必要だというプレゼンテーションの極意を、県内の中高生や大学生ら、35人に伝授した。

 弘道館2とは 
 「弘道館2」は、幕末佐賀の藩校・弘道館をイメージして再現した県の人材育成事業。佐賀県内の若者を対象に、さまざまな分野の最先端で活躍する県内ゆかりの講師を招いて学ぶ。コーディネーターは電通の倉成英俊さん(佐賀市出身)。
 次回は7月29日午後2時から、佐賀市の県立図書館で佐賀市出身のタレント優木まおみさんを講師に迎える。問い合わせは事務局、0952(40)8820。

 

フリートーク 「恥かくのも大事」

 

◆ファミレスは原点の場所
 10代の時からジョイフルで作品を作ったり計画を練ったりし、最近も利用するという326さん。「ここで作った作品や描いていた本、作詞がたくさんある。その場所を教室にしたい」と思い出深い“原点の場所”を借り切っての開催となった。
 作業している自分と周りで食事や会話を楽しんでいる人とを童話『アリとキリギリス』に例え、「みんながファミレスで楽しんでいる横でずっと(作品を)描いていた。僕はアリだと思いながら筆を走らせていた」と振り返った。

◆鼻をへし折られた18歳
 326さんは中学校での絵の成績は普通、高校でもハンドボールに打ち込んでいたという。「とはいえ夢をかなえるためには何か動かなければいけない」と絵は描いた。一番影響を受けたのは鳥山明さんの『ドラゴンクエスト』で、自分で考えたモンスターを描いてカードを作っていたという。「何か逆算してやっていたというより、ただ好きで描いていた」と話した。
 高校卒業後、福岡の専門学校に進学。326さんは、「40人のクラスの中で一番絵が下手だった。最初で負けた」と振り返る。入学直後、車やバイクの絵を描かされたが描き方が分からなかったという。「恥をかきたくなくてボクシングのグローブを1個書いた」と326さん。「それでも一番下手だった。まあまあ書けるつもりで行って鼻をへし折られ、上手な絵は描けないと思ったのが18歳の時」。326さんがデビューした年だった。

◆自分だけは自分のファン
 「クラスで一番絵が下手だったし、ばかにされていたけど平気だった」と語る326さん。「自分だけは自分のファンだったから」。自分を信じる気持ちが人一倍強かった。「自分よりうまい人はいっぱいいるかもしれないけど、うまい下手で自分自身は測れないので好きか嫌いかでいいのかなと思う」。
 ほかにも身近にファンが2人いた。父親と祖父。326さんが絵を描き始めたきっかけとなった2人はあまり仲が良くなかったという。夕飯はみんなで食べるというルールがあ

 

り、326さんは「会話がない家庭に僕が絵を描いて持って行くと2人が絵を囲んで、ああでもないこうでもないと話してくれるのがうれしくて絵を描き始めた」と話した。「家族がファンでいてくれた。最初から人の会話の一部になったり、きっかけになることが一番のよろこび」と笑顔を浮かべた。

◆考えを具現化して伝える
 現在のようにSNSがなかった当時、素人が作品を披露する場がなかった。「逆に言えばライバルがいなかったので自分でそういう場所をつくっちゃえ。場所がなければつくればいい」と326さん。オリジナルTシャツやポストカード、ポスターなどを自費で作ってフリーマーケットで売ったり、雑貨屋に商品を置いてもらえないか交渉したり、積極的に自分の絵を使ってもらう場所をつくった。
 赤っ恥をかいた経験もあった。「おまえ、こんな絵でよくやろうと思ったな」と大人に言われて恥ずかしい思いもしたという。「自分だけが自分のファン」。その気持ちで乗り切った。一方で、「面白いから個展を開いたら」と後押ししてくれる大人もいた。326さんは、「絵を描くのも大事だけど恥かくのももっと大事」と話す。背中を押してくれる大人と出会うためには、「自分の考えを具現化して人に伝えることが一番」と説いた。

 

ワークショップ 「夢をかなえ続けるプレゼン」

 

 一日、何時間勉強しますか-。 ワークショップの冒頭、326さんは参加者に問いかけた。
 中学3年の高校受験の面接。その時に問われたのが「一日、何時間勉強しますか」。事務的に質問する先生に対して326さんは、時間で答えられないと前置きした上で「その日に自分で課したノルマが終わるまで勉強しているので、ノルマが終われば30分でも終わりだし、なかなか理解できなければ6時間でも勉強する」と答えた。
 高校入学後、面接官だった先生に呼び止められ「テストの点数では危なかったが、面接で面白い子(326さん)が来たから入れるように推した」と言われた。326さんの人生初のプレゼンテーション(プレゼン)だった。
 「何かを伝えて目の前の人に楽しんでもらう経験をしたのが中学3年生の時。夢をかなえる上で一番大切なのはプレゼン。夢はかなって終わりじゃなくて、かなえ続けることが大事。かなえ続けるためには(絵を描く)技術よりもプレゼンが大事」と呼び掛けた。
 ワークショップで参加者は、目の前に配られたA4の紙にイラストや短い文章で将来の夢や伝えたいメッセージをそれぞれ表現し、前に出て約1分間、自分の思いの丈を発表した。

 

 「漫画『ONE PIECE(ワンピース)』のような旅をしたい」と仲間を募集する男子医学生や、「学校で開発したアロマテラピーの精油のパッケージデザインを326さんに描いてほしい」と依頼する男子高校生などさまざま。
 326さんが「インパクトがあり、キャッチーなプレゼンだった」と評価したのは、マグロが好きな男子大学生のプレゼンだった。マグロ1匹のイラストを紙いっぱいに描き、「(マグロの)曲線美が美しい。目がきれい」などマグロの魅力を熱くアピールした。無料通信アプリ「LINE(ライン)」でマグロのスタンプも制作しており、「買ってください」とPRした。
 初めてプレゼンする人もいて、1分に収まりきれなかったり具体的事例に欠けたりする発表もあった。326さんは「1分とは言わないけど、伝えたいことはまとめた方が伝わりやすい」「プレゼンは愛情が足りていないと9割以上実を結ばない。(興味を持ってもらえれば)その仕事で実を結ばなくても他の仕事につながるきっかけになる。1回のプレゼンで自分に投資してもらう気持ちが大事」とアドバイスした。

 

Q&A

 会場の参加者とインターネットのライブ配信の視聴者から質問を投げかけられた326さんは、一つ一つに熱く答えた。

 

Q.どうやったらプロになれるか
 質問をしないで済むくらい自分でいろんなことを試すのが一番。僕の方法でプロになろうとしても僕がやった後なので何も残っていない。自分だけの方法を探すのがいい。  プロの人は月に数百枚描く。プロがやっているならアマチュアはその時間以上努力しないと、(プロには)絶対なれない。プロが何百枚描いているなら千枚描く気持ちじゃないと、その人たちを追い抜いてその席を自分が取ることにはまずならない。質問が思い浮かばないくらい努力するのが何よりも大事。

Q.326さんの今の夢は
 僕に背中を押されてプロになりましたとか、生きていくことに勇気が持てましたという人から仕事を依頼されるのがうれしい。(僕に)影響を受けたという人から仕事をもらうのが夢なので、そのためにも長く(活動を)続けることが夢。

Q.感謝している人は
 たくさんいる。1番感謝しているのは、ばあちゃん。無償の愛をくれていたので、プロになって最初に一番喜ばせたかったのは、ばあちゃん。具体的に喜ばせたい人がいると頑張れる。ばあちゃんのおかげで頑張れた。

Q.地元・佐賀の魅力は
 人材。(県出身だけでなく)佐賀に来た人も相当面白い。何もないと思われているかもしれないけど、佐賀の人たちのアイデアやセンスはどこの都道府県にも負けないと思っている。

Q.回りにはどのような人が集まっているか
 実は人付き合いは苦手。人前で話したりするのは得意だけど好きじゃない。みんなにプラスになると思ってるからやれているだけで、率先してテレビに出たり表に出て目立ちたいというのは全くない。
 でも面白い環境をつくるのは好き。個展で若いアーティストに参加してもらうとか、自分一人ではできないことを具現化してくれて、その人にもメリットがあるような関係のクリエイト仲間は率先して作るようにしている。自分にできないことができる人の近くにいるようにしている。

Q.絵本「やさしいあくま」を作った時はどんな気持ちだったか
 絵本が好きで、自分の子どもができたら自分の絵本を読ませたいと思って描いた最初の絵本。自分でも好きな作品。
 その時に何かが自分の中で一個変わった。空想だけど、目の前に子どもがいて読んであげているとしたら、その子どもに読んで聞かせてもいいものを作らないといけないと思った。それを読んで誰かが不幸になるような作品を作ったらいけない。読者や子どもをリアルに感じることができた。あの時に描けてよかったし、描く前と後で作風も変わった。

Q.アイデアの出し方
 自分のために何かを作っていると、すぐに壁にぶつかるし、つまらなくなる。誰かに読んでもらいたい、誰かを元気にしたい、勇気を出してもらいたいとか、誰かを想像したらアイデアは湧き出てくる。対象を具現化するとアイデアはいくらでも出てくる。

Q.一番好きな言葉は
 一番は分からないけれど夢に関する言葉が好き。「誰かが叶えた夢ならば、それは必ず叶う夢」。夢は必ずかなうんだという本や歌とかあるけどうそ。絶対かなうのはない。でも夢は絶対かなわないというのもうそ。かなえた人がいるなら、その夢はかなう夢ではあると言える。
 佐賀のことを思って書いた「夢を叶える準備は佐賀でもできる」という言葉も好き。

 

佐賀弁で佐賀のみなさんへ

 「夢ばかなえる準備はどこでもできる」。
 佐賀におっけん夢がかなわんとか、佐賀けん無理よという人が僕の周りにも多かった。僕は佐賀県で夢をかなえる準備をして夢をかなえることができた。佐賀にいながらでも、どこにいながらでも夢をかなえる準備はできるけんが、場所を夢がかなわない言い訳にせんで場所をモチベーションに変えて、かなえてくれたら。夢をかなえる準備は佐賀でもできる。

 

参加者感想

小島千菜さん(14)=成章中3年=
 活躍している人が中学の先輩ですごい。夢をかなえる準備はいろいろな所でできると勉強になった。将来の夢は定まっていないけれど、身近なところで準備ができれば。積極的にできるように考えていきたい。

安富大晟さん(16)=有田工高2年=
 学校の授業内容に生かせる内容だった。自分が作った作品のプレゼンをする機会があるので話の仕方や、一番は愛が必要だと勉強になった。デザイン関係の仕事に就きたいので役に立てたいと思う。

 

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