新郎新婦や式参列者、支援スタッフらに囲まれ、幸せそうに笑う中島泉さん(下段左から2番目)=河畔病院提供

息子の結婚式に出たい。難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)を患う佐賀県唐津市和多田の中島泉さん(60)は、医療チームの万全の支援を受け、長男の会社員中島佳彦さん(28)と裕美さん(25)の式に出席できた。家族と医療チームが力を合わせて困難を一つずつ乗り越え、笑顔溢れる式を実現した。

 明るく世話焼き、友達とよくお茶していたという泉さん。49歳の時、走りにくくなったり、右手に力が入らなくなったりする症状が出始めた。ALSだった。

 病状が進むと飲み込む力がなくなり、胃ろうを造設した。自発呼吸ができなくなり人工呼吸器も手放せなくなった。佳彦さんは「呼吸器をつけることで母の声が聞けなくなり、つらかった」と話す。常に誰かが見守らなければならず、家族での外出は自然と減った。

 しかし「突然親を亡くす人もいる。自分には親孝行できる時間がある」と佳彦さん。家族全員で式に臨むことを決めた。

 昨年11月、泉さんのかかりつけ医である河畔病院(唐津市)に相談。「母の務めを果たしたい」という泉さんの思いに応えたいと、主治医の岸川秀明さん(51)とリハビリスタッフの熊野亘さん(33)が支援チームを立ち上げた。

 伊万里市の式場を下見し、チャペルの階段移動を想定して東唐津駅で練習した。医療機器の故障に備えて予備も用意した。容体急変時の対応は近くの病院と打ち合わせた。会合を重ね、考えられるリスクを一つ一つつぶしていった。

 当日3月4日、泉さんは着物を着て、車いすで参列した。そばには、支援スタッフが常に付き添った。スタッフや家族が泉さんを介助する姿は参列者の胸を打った。「家族を大切にする気持ちを教えられた」。式後、多くの感想があった。

 泉さんは話せないが、五十音を読み上げると発したい音のタイミングでまばたきし、一音ずつ紡ぐことができる。「思い出をありがとう」。スタッフが聞き取って書いた手紙は、夫の次男さん(62)が代読した。「妻の思いを伝える機会を作ってもらえた」と喜ぶ。泉さんも「最後まで参加できると思ってなかった」とまばたきで告げた。

 「かなりの準備と話し合いが必要。簡単にできることではない」。佐賀大学医学部で難病医療コーディネーターを務める小栁みどりさん(54)は称賛し、「誰もがその人らしく生きられるという理想の社会への一歩になるような事例」と話した。

筋萎縮性側索硬化症(ALS)

 筋力低下と萎縮を招き、進行すると四肢がまひする。一方で触覚や視覚などの感覚は通常のまま。原因不明で、有効な治療法は見つかっていない。厚生労働省指定の難病で、2016年の全国の患者数は9557人、佐賀県内には70人いる。

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