1年365日、ほとんど毎日が「○○の日」。歴史的な日もあれば、単なる語呂合わせや商魂のたくましさがのぞく日もある。そんな中で、5月の第2日曜日「母の日」は、広く浸透している記念日の一つだろう。

 この日が近づくと、紙面にも「母の日商戦」の記事が載る。今年は定番の花のほか、高級感のあるレースの日傘やバッグなどが人気だという。プレゼントを贈るかどうかはともかく、日ごろは照れもあって口にできない母親への感謝を伝える機会として、いい記念日ではないかと思う。

 母の日と聞くと、歌手の美輪明宏さんを思い出す。美輪さんが作詞・作曲した「ヨイトマケの唄」のモデルになったという小学校時代の同級生とその母親の話である。

 授業参観の日、一人の女性が遅れて教室に入ってきた。着飾った母親たちの中で、その女性は野良着に、姉さんかぶり。息子は「出来の悪い少年」で、はなを垂らしていた。それを見た女性は息子のところへ歩み寄ると、周りの目も気にせず、そのはなをズズッとすすり取って、窓からペッとはき出した。何のためらいもない一瞬の行動。その様子を目にした美輪さんは、背後に母性が広がっていくように感じたという。

 歌手になった美輪さんは炭鉱町での興行の際、真っ黒な炭鉱作業員を見て「励ます歌を作りたい」と思った。その時、工事現場で働きながら息子を育てたこの母親が思い浮かび、「ヨイトマケの唄」につながったそうだ。

 美輪さんは1935(昭和10)年生まれ。時代も環境も今とは違うとはいえ、母親という存在に畏敬の念を抱かずにはいられない。

 母子の関係はそれぞれで、友だちのように仲のいい母子もいれば、ときにぶつかり、すれ違うこともある。でも、どんな状況であれ、深いところで強くつながっている。美輪さんの話を思い出すと、そんな気持ちになる。(大隈知彦)

 佐賀新聞は読者のみなさんから「母の日メッセージ」を募り、きょうの紙面に掲載している。どのメッセージからも深い感謝が伝わってくる。慌ただしい日常だが、この企画が静かに、穏やかに、それぞれの母親を思う時間につながれば幸いである。

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