幕末の佐賀藩主、鍋島直正を主人公にした歴史小説「かちがらす 幕末をよみきった男」と漫画「鍋島直正」の発刊を記念したシンポジウムが3月上旬、佐賀市で開かれた。作家の植松三十里(みどり)さんの基調講演やパネルディスカッションがあり、直正公の偉業や今後の佐賀について意見を交わした。その内容を紹介する。

【 動画 】

 

【 パネリスト 】
 ■陣内孝則さん(歌手、俳優、タレント。福岡県大川市出身、佐賀大附属中出身)
 ■植松三十里さん(小説「かちがらす~幕末を読みきった男~」著者)
 ■前田 司さん(梓書院出版事業部長、漫画「鍋島直正」原作者)
 ■山口祥義さん(佐賀県知事)
【 コーディネーター 】
 ■中尾清一郎さん(佐賀新聞社社長)

 

【 パネル討論 】 佐賀はポテンシャルが高い

俳優 陣内孝則さん

(中尾) 幕末期の精神、命を賭して守ろうと、あるいはつくろうとしたものが歴史の知識にとどまっていないだろうか。佐賀藩は日本をリードし、世のためになった。それで佐賀は満足だという「謙譲の美徳」、県民性があるように思うが、いかがか。

(植松) 当時からそうだが、佐賀はまじめだなという感じはある。長州藩は公的な藩のお金でさんざん遊んでいるが、佐賀は全然そうしたところが見当たらない。清廉潔白で、奥ゆかしくて自慢しないというところが良さでもある。

(陣内) 佐賀の同級生はたくさんいるから

作家 植松三十里さん

分かるが、直正の先見性を含め、佐賀の人はポテンシャルが高く、ピースフルで控えめで和を重んじる。だけど、決して自分から表には出ない。直正の生き方を見て、改めて強く感じた。

(中尾) 明治維新150年を機に、当時に光を当てるのは大切だが、過去の栄光を振り返るイベントであってはならないと思うが。

(山口) 混とんとしている現代世界の中で、歴史の上でも実直にやってきた日本、佐賀の農作物、ものづくりは間違いないというところを今、世界にアピールしていくことが

漫画原作者 前田司さん

大事になってくる。

(中尾) よくよく調べてみると、どんな小さな町や藩にもドラマがある。こうした多様性は、中央集権国家ではないからできたように思う。個性的な地域振興の在り方をどう考えるべきか。

(植松) 薩摩には薩摩の、佐賀には佐賀の気風、個性があった。佐賀藩は外国に目を向けて幕府と一緒に万国博覧会にも参加した。特に伝統工芸の分野は今でも海外で高い評価を受けている。佐賀は伸びしろのある地域。世界に打って出るための過渡期にあると思う。

山口祥義 佐賀県知事

(山口) 佐賀は人が交流するまちになっている。九州佐賀国際空港は利用が右肩上がりで、訪日外国人の宿泊客数の伸び率は全国3位、移住者は日本で1位だ。なぜ外国人が佐賀を好きなのかを考えると、日本らしい生き方をしているからだと思う。都市的なものは飽きられるが、日本的な考え方、美しさ、技術はまねできない。こうしたものを大事にし、東京からではなく、佐賀から世界に向けて人づくり、ものづくりを進め、発信していきたい。

(中尾) 明治維新150年にあたり、これからの150年、200年に向けて歴史から何を学び取るべきか。

中尾清一郎 佐賀新聞社社長

(前田) 漫画で伝えたかったのは直正の精神性だ。なぜ反射炉を造ったのか、どんな思いが背景にあったのか。こうした直正の人柄に触れてもらう中で、より高みを目指すきっかけにしてもらえたらと思う。

(植松) 幕末は非常に複雑。連載を始めたころは、読者がついてきてくれるだろうかと不安もあった。今後を考える上で、少しでも示唆を与えることができたのならうれしく思う。ぜひ(小説を)役立てていただければ。

(陣内) 素晴らしい原作ができたので、できればテレビ番組や映画などで映像化してもらいたい。制作費を集めていただければ、私は役者を集める。(主人公に)立候補もする。

(山口) 肥前さが幕末維新博覧会は10カ月という長い期間開催する。ぜひいろんな意見を出してもらって、みんなで育てる博覧会にしたい。町歩きをして楽しんでもらいながら、多くの気づきを聞かせてほしい。

 

 

【 基調講演 】植松三十里さん 女性の評価が高い直正公

 

 佐賀県との縁は、第9回九州さが大衆文学賞で佳作をいただいたのが始まり。実家で歯車を作っていて、幕末に鉄をつくる大きな炉を造ることが心に刺さった。小説「黒金の志士たち」で佐賀藩の反射炉プロジェクトを書いて、幕末の佐賀は書ききったという達成感があった。明治維新150年を前に、県の担当者から「もう一回佐賀のことを書きませんか」と言われ、150年ならばと、鍋島直正公を正面切って書いたのが「かちがらす」だった。いい加減なことは書けないので、地元の専門家の人に文章をチェックしてもらった。地元の人のサポートがあってできた作品。

 ◆女性にうける殿様

 直正公は座っているのが嫌いで、行動力のある殿様だった。自分でオランダの船に乗ったり、売ってくれと交渉したり、一人でどんどんやってしまう。幕末佐賀藩がいろいろできたのは殿様の気質が行動的で決断力があったのが大きかったのでは。
 歴女という言葉がはやりだした頃、女性からの直正公の評価が高かった。男性が好む歴史書は、西郷隆盛や坂本龍馬など下からはい上がって大きなことをやって悲劇的な死をとげたというストーリーが多い。直正公はいいパパだし女性に対しても優しい。女性の作家として直正公を書いたのは必然的だったのでは。直正公を全国的にアピールする機会があれば女の人に受けるキャラクターだとアピールしていくといい。

◆直正公の人材育成

 佐賀藩は大砲を造って力をかけていたが、佐賀の七賢人の中に軍人は一人もいない。大砲は造ったけれども戦争をやるための大砲じゃなく、台場に設置して存在することで海を守るという理想的な使い方をした。藩の中で軍人もいたが反戦思考で、直正公が育てた人材にも直正公の考え方が育っていた。
 枝吉神陽は、帝が一人でみんな平等という「日本一君論」を唱えていた。藩主も将軍も否定するので幕藩体制では危険思想だけれども、直正公は芽を摘まなかった。そういう人材の育て方もあった。

◆今後の佐賀

 佐賀はまだまだ伸びしろのある地域。広々とした平野でクリークもあり、きれいですてきな場所。県内全域を見ると、唐津にはお城があって肥前名護屋城の石垣もある。食べ物もおいしいし、お茶所や温泉もある。最初に空港にきた当時、空港は批判されていたが、今になってみると国際空港になってすごい。当時はこの繁栄を想像していなかった。伸びしろはあるので誇りを持って歴史をいかしてもらいたい。

 

大型店でトークショーも 陣内さんに会場歓喜

手を挙げかっこよく退場する俳優の陣内孝則さん

 佐賀市のゆめタウン佐賀でトークショーがあり、小説家の植松三十里さん、漫画家の太神(おおが)美香さん、漫画原作者の前田司さん、俳優の陣内孝則さんが小説や漫画の制作時を振り返り、佐賀の印象などを語り合った。陣内さんはパントマイムも披露し、会場を盛り上げた。

 

鍋島直正公の功績について話す左から俳優の陣内孝則さん、作家の植松三十里さん、漫画家の太神美香さん

【 動画 】

 

 

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