「スマホ時代の子育て」をテーマにしたセミナー。参加者はタブレット型端末を使いながら、付き合い方を考えた=神埼郡吉野ヶ里町のきらら館

 スマートフォンやタブレット型端末が普及する中、子育てや子どもの成長の過程でどんなことに気をつければいいのか悩む保護者がいる。そんな「スマホ時代の子育て」をテーマにしたセミナーが佐賀県内で開かれた。参加者は日ごろの使い方や迷いを語り合い、上手な付き合い方を考えた。

 「できるだけスマホを使わせないようにしているけれど、病院の待合室とかで使ってしまう」。10月下旬、神埼郡吉野ヶ里町のきらら館。後ろめたさがにじむ保護者の言葉に、ほかの参加者もうなずいた。「公共の場で騒いで迷惑をかけるよりは…」。そんな親なりの配慮とは裏腹に、「スマホ子守」「スマホ育児」というくくり方で、育児の手を抜いているように見られるのではないかという悩ましさも同時に抱えていた。

 参加者は、子どもの視力や発育への影響にも漠然とした不安を感じていた。「2歳の子どもが『首や肩が痛い』って言うんです。前のめりの姿勢で見ていて気になる」と振り返った。

 程度の差はあるものの、「0歳児であってもスマホやタブレットに興味を持つ」という見方が、参加者に共通した意見だった。講師を務めたNPO法人「ITサポートさが」の浴本信子さんは「親が楽しそうに使っているんでしょう。それを見て、子どもが興味を持つのは当然」と指摘した。その上で、公共の場での使用に関しては「以前は気に入ったおもちゃをいろいろと持参する必要があって、大変だった。静かに過ごしてほしい場所で緊急避難的に短時間、スマホを見せることは有効だと思う」と肯定的に捉えていた。

 便利な半面、使い方に悩む保護者が多い背景について、浴本さんは例え話をした。交通ルールやマナーは幼い頃から「歩行者は右側通行、青信号になってから左右を確認して横断歩道を渡る」といった決まり事を学ぶ。情報機器への接し方にはこうした蓄積が乏しく、成長に応じて「何に気をつければいいか」という道しるべ自体が限られていると説明した。

 こうした現状を踏まえて浴本さんは、子どもの発達に詳しい佐賀女子短期大学の菅原航平講師と、発達段階に応じた情報機器との望ましい関わり方を検討している。方向性を提示するまでにはしばらく時間がかかる見通しだが、現時点で指摘できる注意点はある。最初から機器を渡しっ放しにせず、「保護者と一緒に」という姿勢の大切さだ。

 セミナーでは「幼い頃は悪質なサイトへの接続を制限するフィルタリングは必須」と強調した上で、制限は年齢を重ねるとともに弱め、高校では完全に取り除くことを勧めた。強いままでは親に隠れて使うようになり、SNS(会員制交流サイト)などでトラブルに巻き込まれそうになったとき、罪悪感から相談しにくい状況を生み出すと考える。「気楽に話せる関係性をつくる方が大事」という。

 また、無言で相手や他人にカメラを向ける人が増えてトラブルにもなる現状を踏まえ、肖像権があることを早い段階から教える必要性も示す。「勝手に撮っては駄目。『写真を撮りますよ』という一言を」と話し、事前に了解を得ることを心がけるように促した。

 見えない相手への思いやりを、親子の会話を通じて育む大切さも説いた。表情が見えず、声色も分からないツールを使っていると、自分が時間を持て余していた場合、「相手も暇」と思い込みがち。こうした想像力の欠如は「返事がすぐに来ない」というイライラにもつながりかねない。例えば「おじいちゃんは今、何をしているんだろう?」という会話を繰り返し、異なる生活スタイルや考え方を思い浮かべることで、相手に配慮する姿勢は育まれていくと説明した。

 「絵本だって、ポンと子どもに渡すだけでは駄目。一緒に読むことで、喜びに変わる。情報機器も同じ」と浴本さん。参加者からは、こうした学びの機会を重ねてほしいという声が上がっていた。

=さが深掘り=

【メモ】乳幼児の2割「ほぼ毎日」

 ベネッセ教育総合研究所が実施した「第2回乳幼児の親子のメディア活用調査」によると、乳幼児の約2割が「ほぼ毎日」スマートフォン(スマホ)に接している。その一方で、1日当たりの使用時間は約7割が15分未満にとどまり、保護者が「長時間見せない」「親と一緒に使う」といった工夫をしながら使わせている傾向がうかがえた。

 調査は2017年3月、0歳6カ月から6歳までの乳幼児を育てる母親3400人を対象に実施した。

 母親のスマホ所持率は92・4%で、前回(13年)調査を31・9ポイント上回った。親が家事で手を離せないときにテレビやビデオ・DVD視聴をさせる割合が、前回よりも8~10ポイント減少したのに対し、スマホやタブレット型端末の使用は7ポイントほど増加した。

 研究所の関係者は「新たなメディアが乳幼児の生活に浸透していく中で、一定のルールやマナーを踏まえながら、どのように活用していくか、社会で考えていくことが重要」と話している。