家族にとって、認知症の人の介護は、初期の頃の対応がとても大変です。いつもと変わらないと思える言動の中に、認知症の症状が混じり合ってくるので、とても混乱します。
■京子さんの場合
5年前に父親が亡くなってから、お母さんと2人暮らしの京子さん。働いている京子さんに夕食を作って待っていてくれたお母さんでしたが、80歳を過ぎた頃から物忘れがみられ始めました。水の出しっぱなしや鍋焦がしがみられ、電化製品の操作が分からなくなり、家事がうまくできなくなってきました。
京子さんにとっては、仕事で留守中に火事になったら大変だと、仕事に出る前にガスの元栓を閉めていくようになりました。(ガスをIHに替えるとよさそうですが、新しいことが覚えられないので、使いこなせなかったり、やけどをしたりすることもありますのでご注意を)。同じ物ばかり買ってきて、冷蔵庫の中に賞味期限切れのものがいっぱいになってくると、買い物に行けないように、お母さんは財布を持たせてもらえなくなります。(それがきっかけで、「お金がなくなった」と物盗られ妄想が始まることもあります)
そのうちにお母さんは、お金を持たずにスーパーに行って、万引と間違われたり、帰り道が分からなくなって警察のお世話になったりして、京子さんは、玄関の手の届かないところに二重に鍵をかけて、お母さんが外出できないようにしてしまいます。(GPSを付けて、スマホから所在確認をしている家族も少なくありません)
■一人で抱え込まないで
京子さんがお母さんに意地悪しているわけではありません。家族の介護のありがちなパターンです。しかし認知症の本人にとっては、これまでやっていた日常生活がどんどん制限され、能力だけでなく意欲まで失っていきます。京子さんも、ここに至るまでに、何度もお母さんに言い聞かせ、時にはけんかになりながらも、あの手この手の対策を取ってきました。
しかし、京子さんは、変わっていくお母さんを目の当たりにしながら、一人で追い詰められていきます。一方、お母さんも、自分がどうなってしまったのだろうかと戸惑い、不安になっているのです。少しの見守りがあるだけで、これまでやってきたことは、まだまだやれます。家族で抱え込まずに、周囲の人を頼ってみてください。そのことが、認知症の進行を緩やかにすることにもつながります。
■仲間で支え合う
認知症の人には、本人の言うことを否定せず、相手のペースでやさしく接しましょうと言われますが、家族はいつもそういうわけにはいきません。分かっていてもつい感情的になってしまって、自己嫌悪に陥って悩みます。その気持ちや思いを分かってくれるのは、やはり同じ経験をしている人たちです。「認知症の人と家族の会佐賀県支部」では、認知症の本人や家族を中心に、お互いの困りごとを語り合ったり、情報交換を行ったりしています。介護経験者からの具体的なアドバイスは、気持ちを明るくさせてくれますよ。