多久市南多久町の入り組んだ路地の奥にある「そば処 陽気」の店主。築80年以上経過していた空き家を改装し、2年前に開業した。自慢の十割そばを振る舞う店内の壁には、メニューと並んで、演歌歌手としてCDデビューした際の自身のポスターも。若い頃からの二つの夢を実現し、今なお奮闘する「二刀流」だ。
佐賀市出身。18歳で就職し、電気配線の作業員として全国各地の原発や製鉄所、造船所などで働いてきた。若い頃からそば屋に興味があり、仕事の合間に各地の名店を食べ歩き、実際にそば打ちの修行を受けて腕を磨いた。歌も好きで、各地の大会で優勝や入賞経験を重ねた実力者だった。
「自分がしたいと思ったら年は関係ない」と言い切る。大分の造船所で働いてきた時に作曲家と知り合い、70歳を目前に本格デビュー。現在は生徒にカラオケ指導を行っている。そば屋は当初、ほそぼそと営むつもりだったが、「だんだん欲が出て」、自ら油圧ショベルの免許を取得して整地するなど、竹に覆われて荒れ果てていた空き家を1年半かけ生まれ変わらせた。
改装の際に幼稚園の廃材を無償で提供してもらったり、店内で常連客とカラオケを楽しんだりと、地域とのつながりも生まれている。「今が一番楽しい」と笑顔を見せる。(古川浩司)