以前にもまして、自分の病状についてインターネットで調べてから受診する方が増えています。例えば下腹部痛で病院にかかりたい場合、泌尿器科がよいのか、あるいは胃腸系か、女性であれば婦人科なのか、などを悩んだら、ネットサイトやアプリである程度の質問に答えることで、どこにかかるのか、どんな病気が想定されるのか、などを教えてくれます。患者さんにとっては、前もって予想される病名がいくつか分かっていることは、実際に受診して病状説明を聞くときに、何も予備知識がないよりも落ち着いて話を聞けるというメリットがあるように感じます。
しかしながら実際は、どのような症状を入力していくかによっても答えがずいぶんと変わってきます。われわれ臨床医は、実際の患者さんと話したり、検査の結果などを総合的にみて診断を行いますが、患者さんが予想していた診断と異なることも当然あります。
そのような背景も含めて、患者さんになるべく分かりやすいように説明をすすめるのですが、先にAI(人工知能)が出した診断を信じきっている方ほど、違うということを説明し、方向転換を図るのには時間がかかります。あるいは、ネットが正しいという先入観を持ち続け、それを肯定してくれる病院を探してさまようようなケースも散見されます。これでは誰にもよいことがありません。
診断能力そのものについては、もうすでにAIは人間よりもずっと優れているのかもしれませんが、目の前の患者さんが今何を考えどういう状況にあるのかを考えながら対応していく能力については、まだまだ人間に分があるのではないかと私は思っています。ネット情報と違うと思っても、いったん立ち止まって目の前の人間の話に耳を傾けてみませんか。
(なかおたかこクリニック院長 中尾孝子)