「年を取ると、家の通路を掃除するようになる」。あやしげな医学用語をちりばめた際どい笑いで沸かせた白衣の漫談家、ケーシー高峰さんのネタにある。「これをローカ現象と呼ぶ」…なんてね。好きだったな◆だんだん足どりが不確かになり、畳のへりにつまずいたり、段差があると思い込んで空足を踏んでよろめいたり。老いとは足元から実感させられるものらしい。普段通るところは片付けて、というケーシーさんのネタもあながちデタラメには思えない◆年とともに足元があやしくなるのは、地域社会も同じだろうか。埼玉・八潮の痛ましい道路陥没に続き、福岡・天神近くでも。この国のインフラ劣化はどうなっとるのかと、よそ事みたいに嘆いていると、今度は佐賀市川副町で市道に大きな穴があいた。農業用水の埋設管が腐食していたという◆右肩上がりの未来を追い求めて坂道を駆け上がってきたこの国も、いつの間にか老いて扱いにくい身体になっている。見渡せば道路だけでなく、社会を支えてきた人も仕組みも環境までも、穴があいたり、ほころびたりしている◆埋められるものは埋め、かわせるものは巧みにかわし、つまずかないよう坂道をおりる。そんな「覚悟」が求められる時代なのかもしれない。もちろん、ケーシーさんみたいに「グラッチェ」なんて明るく笑いながら。(桑)

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