暦の上では、もうじき「衣替え」。幼い子なら、小さくなった去年の夏服に成長のよろこびもあろうが、いつしかそんな感慨は遠ざかり、無為に過ごした1年を嘆息するばかり。〈これ以上齢かぞへず更衣(ころもがえ)〉上田五千石◆もともと平安時代、宮廷で夏服に切り替えたのが旧暦の4月1日。江戸時代になると、武家は4月1日と5月5日、9月1日と9日の計4回、衣替えが定められていたとか。時代とともに季節のならわしも変わる。夏めくのが早い今どき、6月1日という節目がむしろピンとこないかもしれない◆近年の異常気象は季節感をどんどん奪っていく。佐賀市で半世紀以上親しまれてきた真夏の催し「栄の国まつり」が今年は2カ月前倒しされ、31日に幕を開ける。参加する人も見る人も、熱中症の危険から身を守るためという。せめて、今年初おろしの浴衣が似合う日和だといいけれど◆「農繁期や企業の決算期などに重なり、まだまだ周知は今ひとつ。時間をかけて定着させたい」と市観光振興課。どうかすると1年の半分近くは夏の暑さが続く時代である。こんなふうに「夏まつり」の定義は変わっていくのだろう◆それでも、変わってほしくないものもある。ひとが集い、つながりを確かめあう、そんな大切な思い出を刻む場所として。〈家を出て手をひかれたる祭かな〉中村草田男。(桑)

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