紙の辞書を引くたのしみは、調べものとは別の言葉と不意に出会うことにある。〈褒美の字放(ほう)屁(ひ)に隣(とな)るあたたかし〉中原道夫。ほめたたえる隣でくさいものをかます…。意外な発見から、こんな一句が生まれたりする◆読み方がご近所同士の言葉には、味わい深いおもむきがある。物事を正しく判断する「識見」が求められる政治家の、うかつな「失言」。よせばいいのに「受け」を狙って、とんだ「憂き目」をみる。江藤拓農相の辞任を見越していたかのよう◆『政治家失言放言大全』なる大著のある政治評論家、木下厚さんは書いている。〈失言のなかにこそ政治家の本音、政策遂行の本筋が見える〉と。なるほど、買わないで済むくらいコメをくれる支援者がいれば、米価が一向に下がらない理由も透けて見える気がする◆問題発言があった佐賀市の会場には、多くの取材陣がいたという。本紙以外すぐに報じたのを見かけなかったのはどうしてだろう。「国会議員には常識がない。でもメディアも非常識だ」。そう言い放った首相はたしか、後任の農相の父上。国民生活をちゃんと見ているか、問われているのは政治家だけではない◆いまは政治のゴタゴタより、一刻も早い「コメ不安」の解消に尽きる。消費者も生産者も納得できる農政のかじ取りを、ぜひ。「失言」の次にある言葉は「実現」である。(桑)

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