『名無し』佐藤二朗、永田諒/ヒーローズ

 淡々と殺人を繰り返す山田太郎。彼の犯行を阻止すべく、警察組織が動き出す。被害者たちは鋭利な刃物のようなもので殺害されていると思われるのだが、奇妙なことに防犯カメラには凶器が映っていない―。

 山田は何が目的で、どのようなことを考えて犯行に及んでいるのか。どうやら彼の右手に秘密があるようだ。事情があって名前も身よりもなかった少年時代、路上で警察官に保護された際には、右手を使えないように縄やコードがまかれた状態で発見された。一体彼の身に何があったのだろうか。

 緊張感ある展開が繰り広げられ、読み応えがある。山田のつかみどころのない人物像に対しての恐怖に冷や汗が流れる。えたいの知れない狂気を描き、黒色の魅せ方が巧みな永田さんの絵にも引き込まれる。

 原作を担当したのは、俳優の佐藤二朗さん。役者としてだけではなく、脚本家や映画監督としても活躍する。漫画の原作を手がけるのは今回が初めて。この作品は元々、映画用として書いた脚本だったそうだ。「実は正直僕は、映画にすることを、まだあきらめていない」。本書の発売日前日、SNSに投稿された佐藤さんの告知文にはそう添えられていた。

 山田太郎はなぜ、殺人鬼と化したのか。警察は凶行を阻止できるのか。予想がつかず、今後の展開も目が離せない。映画化への期待も高まる作品だ。(ヒーローズ/792円)

(コンテンツ部・池田知恵)