ミソサザイ 撮影・加藤俊英

 ヨーロッパから東アジアにかけて広く分布しており、おもに昆虫などを食べる鳥である。国内では、山地の林の渓流沿いなどによく生息している。

 全長10センチほどでスズメよりも小さく、国内の鳥の中でもっとも小さい部類に入る。体色も地味であるが鳴き声は大きく、オスは複雑な音のさえずりをさかんにする。

 イギリスでは人家の庭先によく来る身近な鳥であるそうで、シェイクスピアの作品中でも頻繁に登場する。

 また、イソップ寓話の中では、ワシの首に乗って、太陽まで飛んだワシよりも最終的に高く飛んだことにより、鳥の王になっている。

 国内でも、アイヌの伝承文化の中で、まっさきに荒グマの耳に飛び込んで何日間も攻撃し、退治に貢献した、という武勇伝があったり、仁徳天皇の名前である大鷦鷯尊(オオサザキノミコト)の「サザキ」が本種に由来していたり、と、声が大きく目立っていたためか、洋の東西を問わず逸話には事欠かない。

 声の大きさといえば、本種では、周囲の環境によって、さえずりの大きさが異なるという報告がある。沢の音やセミの鳴き声がうるさい場所では、静かな場所に比べて大きい声でさえずるという。私たちが、雑踏や強風の中では大声で話すのと似ているだろうか。

 さらに、地域によってさえずり方自体が微妙に異なっているという報告もある。鳥の中には、親や周囲の個体からさえずり方を学ぶ例が多く知られており、本種においても、地域ごとに特有のさえずり方が受け継がれ、ヒトでいう「方言」のような状態になっているようだ。

 この違いが後天的な学習によるものであれば、地域ごとにまさに独自の「伝承文化」が残っている、と言えよう。

(徳田誠・佐賀大農学部教授)