初めて東京を訪れた学生時代、友人と待ち合わせた場所は新宿駅東口だった。目印はバラエティー番組の「笑っていいとも」が大型画面に映る「新宿アルタ」。“お上りさん”でも迷わずに済んだ◆携帯電話がなかった時代の待ち合わせには「ランドマーク」が必要だった。大阪・梅田では紀伊國屋書店前が定番。東京では新宿アルタのほかに渋谷の「ハチ公」像が有名だ。毎日飼い主の送り迎えをし、飼い主が急逝した後も10年間、駅前で帰りを待ち続けた◆その忠犬ぶりに、記事に取り上げた新聞記者が呼び捨てにできないと敬称をつけたことからハチ公と呼ばれるようになったそうだ。NHKで「チコちゃん」が言っていた◆新宿アルタは2月末で閉館し、45年の歴史に幕を下ろした。「笑っていいとも」が11年前に終了し、来館者が減ったという。一度しか待ち合わせに使ったことはないのに思い出を失ったようで寂しい◆きょうはハチ公の命日。亡くなって90年になる。「待つ」ことは辛抱がいる。先が見えない時は特につらい。山林火災が起きた岩手県大船渡市では待望の雨が降り、一部地域できのう、避難指示が解除された。油断は禁物だが一安心である。もし東京に行くことがあれば、今度はハチ公像を待ち合わせ場所に使ってみたい。「待つ力」を分けてもらえそうな気がする。(義)

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