窓を開けると一面が銀世界。そんな朝に胸おどらせることが、年とともに少なくなっていく。『路傍の石』の作家山本有三の一文を思い出すせいかもしれない。〈結婚は雪げしきのようなものである。はじめはきれいだが、やがて雪どけがして、ぬかるみができる〉◆結婚の「婚」の右側にある「昏」は、もともと「暗くて見えない」という意味だそうで、言葉のなりたちを思えば実に奥深い。こども家庭庁の調査によると、40歳未満の既婚者のうち4組に1組がマッチングアプリで出会う時代。雪上の相手がよく見えず、気づけばぬかるみ…なんてご同輩が増えないことを祈るばかり◆人の縁ですら厄介なのだから、組織同士となれば余計むずかしい。ホンダと日産の経営統合は破談になった。好意を寄せる台湾企業を袖にして、世界の自動車産業の勢力図を塗り替える縁談も、互いの関係が対等か従うかで溝ができたのだとか◆幸せな結婚の秘訣(ひけつ)は、どれだけ相性がいいかではなく、相性の悪さをどう乗り切るかにかかっている、と言った人がいる。厳しい国際競争の中で生き残りを図る企業にも妙手はなかったらしい◆〈問ひつめて確かめ合ひしことなくてわれらにいまだ踏まぬ雪ある〉小島ゆかり。多少のことには目をつぶる。そんな円満の知恵も、時間をかけないと使いこなせないものである。(桑)

下記のボタンを押すと、AIが読み上げる有明抄を聞くことができます。