〈夏が来ると冬がいいと言う/冬が来ると夏がいいと言う〉…。今季一番という寒波に背中を丸めながら、どなたかの詩の一節を思い浮かべる。人は勝手なものである。酷暑にあえぎ豪雨におびえたことなど、すっかり忘れて夏を恋しがる◆とはいえ、連日伝えられる北国の豪雪被害は、実は夏場の集中豪雨と発生メカニズムが似通っているらしい。海水温が高くなり、日本海上空は冬でも水蒸気量が多い。そこへ大陸から寒気が流れ込んで雪雲が連なり大雪をもたらすという。元凶はいずれも地球温暖化。夏も冬も心穏やかに過ごせる保証はなくなりつつある◆一見無関係に思える異変が、見えないところでつながっている。それが自然の持つ力とも言えるだろう。雪国の人びとと同じような嘆きが、世界のどこか遠い国でも漏れているのかもしれない◆地球は「沸騰」しているというのに、対策に向けた国際協調の機運は急速にしぼんでいる。強権的なリーダーが放った「いち抜けた」のかけ声は、雪だるまを転がすように企業や意見を同じくする国々を巻き込んで、いつの間にか大きくなる。自分には無関係だと知らぬ顔を決め込んで◆くだんの詩は、愚痴をこぼす前に自分を見つめ直せ、と説いている。冬に耐えつつ、いまを踏みしめるほかない。〈厳といふ字寒といふ字を身にひたと〉虚子。(桑)
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