子どものころ絵本で読んだ『ガリバー旅行記』は、小人の国や巨人の国をめぐる愉快な物語だった。実はその旅にはこんな続きがある◆「バルニバービ」という国で2人の教授が議論をしている。どうすれば人びとの反感を買わず、税金を集めることができるか。一方の教授は「悪さや愚かな行いに対し、隣人たちが税率を決めればいい」。もう一方は反対に「自分が自慢に思う資質に課税すべき」と主張した◆自分は気が利くと思っていれば機知に、自分は勇敢だと胸が張れるなら勇気に、それぞれ課税される。美しさやおしゃれも当然、課税対象である。つまり、最も高い税金を納めるのは、最もモテるヤツということになる。とはいえ、すべて自己評価にすぎないのだが◆米国が中国、カナダ、メキシコに制裁関税を発動するという。「自国が最もすばらしい」と信じるリーダーは、不法移民や合成麻薬などの国内問題を、他国の反感を買うかたちでしか解決する手だてをお持ちでないらしい◆ガリバーが見聞したばかばかしい税制では「正義」「良識」「ひとの良さ」に税はかからない。税金を払ってまで、そんなものを守ろうとする人間はいないから、と。トランプ大統領から名指しされた国々は報復の動きを見せている。正義も良識もない、自由貿易を揺るがす対立は、世界に無益でしかない。(桑)
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