公開中の映画「雪の花」は江戸時代末期、天然痘から人々を救おうと「種痘」の普及に力を尽くした福井藩の町医者が主人公。天然痘にかかった村人たちが自ら隔離の場所に向かう冒頭の場面が印象に残った。当時、天然痘は死に至る病と恐れられた。死者は大八車で運ばれ、人々は恐怖心を募らすばかり。遠い昔の出来事に思えるが、つい5年前は同じような状況だった◆コロナである。2020年のきょう2月3日、神奈川県にクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」が入港した。コロナにかかった乗客から感染が広がっていたことが判明。乗客は下船が許されず、船内に長期間隔離された◆コロナの国内初感染は同じ年の1月15日に確認されたが、クルーズ船の報道で恐怖がさらに増した気がする。人は未知のものに弱い。無意識の偏見で人を傷つけてしまうことがある。「正しく恐れる」ことの難しさを知った◆ところで、先日「たのまれごとは試されごと」という言葉を聞いた。頼まれるのは信頼されている証し、という意味。一銭の得にもならないように見える頼まれごとにも得るものはある。そして、人々が困難に直面した時、雪の花の主人公のように頼まれずとも立ち向かってくれる人がきっといる◆何に力を尽くすか。自分の使命を知る意味で、頼まれごとに向き合うのもいい。(義)

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