「第7回ほんま大賞」受賞!
江戸時代の武士が「生理用品」開発に挑む、エンタメ時代小説

 第7回ほんま大賞を、1月18日に発表した。

 毎年のことではあるが、今年の選考(といっても、選考委員は私一人なのだが…)も難航を極め、結果、『月花美人』と『呼人(よびと)は旅をする』の2作品が受賞となった。ほんま大賞史上、初めてのことである。かたや時代小説、かたや児童書という、小学生からご年配のお客様まで、幅広い読者に楽しんでもらえるラインナップだと自負している。発表翌日から早速売り場を訪れ、発表を楽しみにしていたと受賞作を購入されるお客さまもいて、本当にありがたい。いつも本当にありがとうございます!

 『呼人は旅をする』は、以前このコーナーで紹介させていただいたので、今日はもう1作品の『月花美人』を紹介したい。剣鬼として恐れられる誇り高き武士・望月鞘音(さやね)が、ひょんなことから生理用品づくりへの情熱を燃やすこととなる、江戸時代を舞台とした時代小説である。

 この本を手に取ったキッカケは、本の執筆にあたって実際に生理用品を使ってみたという、著者のSNSの投稿が話題になっていたことだ。著者・滝沢志郎さんは、1977年生まれ、私よりも2歳年配の男性作家。私にとってはなじみ深い生理用品も、一度も使ったことがない男性が使用するとどう感じるのかという感想はとても新鮮で、この経験から生み出された本は一体どんな内容だろうと興味が湧いた。

 めっぽう剣の腕が立ち、前述の通り剣鬼として恐れられる武士・鞘音。兄夫婦の忘れ形見である姪・若葉との暮らしは決して豊かではなく、内職として紙すきを行っている。自身がすいた質の良い紙を使って、今でいうところの“傷に当てるガーゼ”のようなものを作り、納品していた鞘音の耳に、ある日とんでもないウワサが飛び込んでくる。彼が作った“サヤネ紙”が、女の月経を処置するために使われているというのだ。武士の誇りを傷つけられたと、最初こそ激高する鞘音。しかし時期を同じくして、姪の若葉が初潮を迎える。そこで彼は初めて、月経とはどういうものなのか、そして女性たちはそれをどのように処置しているのか、月経があるが故に“穢れ”とされる女性たちは、どのような扱いを受けているのかという問題に直面することとなる。

 かなりの凝り性で職人気質である鞘音が、当時の道具や技法を使って一つずつ問題点をクリアしていく姿には、まるで一緒に生理用品を開発しているような臨場感がある。
 周囲の理解がまるで得られない状況から、少しずつ賛同者を増やし、生理用ナプキンの開発・販売に試行錯誤するさまは、まるで池井戸潤さんのものづくり小説『下町ロケット』や『陸王』のようにエネルギッシュで、ハラハラドキドキ、次の展開へのワクワクが止まらない。
 幼なじみトリオである紙問屋の壮介と女医の虎峰をはじめ、描かれている江戸の人々の姿もたくましく、とても魅力的。時代小説を読みなれていない、苦手意識がある読者にも薦めたい。歴史的な予備知識がなくても話の筋がわかりやすいので、苦にならずに読み進められるだろう。
 何といっても、ところどころ挟み込まれるユーモアがたまらない。
 女性への差別や偏見といったメッセージ性の強いテーマが根底にありながらも、息苦しさを覚えない軽快な読み味は、この“笑い”の力によるのではないだろうか。

 …と、褒め続けているが、それもそのはず。私にとって一番面白かった本が“ほんま大賞”なのだから、しょうがない!
 令和へと時代は変わり、私たち女性は穢れとして不浄小屋に閉じ込められることもなく、安全で快適な生理用品を使用することができるようになった。『月花美人』はフィクションではあるが、きっと鞘音たちのように声をあげ、改革をもたらした先人たちがいたのだろうと思うと、頭が上がらない。

 しかし周辺環境は格段に整ったものの、月経による身体的な辛さは、江戸時代の女性たちと変わらないだろう。環境が整ったが故に、その辛さは訴えづらくなっているのではないか。
 声をあげなければ、行動を示さなければ、決して変化は起こらない。変化を恐れずに声をあげる勇気、そして一歩踏み出す力を、この物語から受け取ってほしい。

■「ほんま大賞」とは?
本間さんが一年間に読んだ本の中から「一番面白かった本」に贈る賞。2018年から毎年1月に発表しています。

「ほんま大賞」受賞作一覧
本のタイトルをクリックすると過去の書評が読めます。 ※括弧は受賞年

第7回(2025年) 滝沢志郎著『月花美人』(KADOKAWA) 長谷川まりる作『呼人は旅をする』偕成社 ←
第6回(2024年) 井上荒野著『照子と瑠衣』祥伝社
第5回(2023年) アフガニスタンの女性作家たち著、古屋美登里訳『わたしのペンは鳥の翼』小学館
第4回(2022年) 中島京子著『やさしい猫』中央公論新社
第3回(2021年) 凪良ゆう著『滅びの前のシャングリラ』中央公論新社
第2回(2020年) 川越宗一著『熱源』文藝春秋
第1回(2019年) 瀬尾まいこ著『そして、バトンは渡された』文藝春秋

本間悠さん

2023年12月、佐賀駅構内にオープンした「佐賀之書店」の店長。自身が作った売り場や本のポップなどで注目を集め、SNSのフォロワー数は1万人以上。多メディアにおいても幅広く活躍中

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