冷蔵庫は「時を止める装置」。家電のない超節電生活を送る元新聞記者、稲垣えみ子さんの鋭い指摘である。今は食べないけれど、いつか食べるからと買い込んで、とりあえず放り込んでおく。そんな「いつか」の箱でもある、と◆わが家の箱をのぞけば、漬物なんかが奥のほうで、すねたように眠っている。途中で飽きて時が止まっている。気にはなるのだが、「色もきれいだし、まだ大丈夫」などと勝手な理屈をこねて見て見ぬふり◆悪いのは自分だと省みつつ、そんなふうに食材を見栄え良くする技術には目を見張る。「赤色3号」という合成着色料は漬物のほか、練り物やソーセージ、キャンディーにグミまで用途は幅広い。それが米国で食品への使用が禁じられた◆ところがその理由はちょっとわかりにくい。「動物実験でがんを引き起こす研究結果がある」からというのだが、一方で「人間に危険を及ぼす科学的証拠はない」とも。食の安全性は何より大事だが、裏付けがあいまいではいたずらに不安を広げかねない◆就任間近のトランプ次期大統領が指名した厚生長官は、合成着色料を目の敵にしてきた方とか。明確な根拠もなくおのれの信念を振りかざして圧力をかける。着色料の肩を持つわけではないのだが、そんな新政権のカラーに、かの国はすでに染まっているのかもしれない。(桑)

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