原稿を出し終わって帰宅中の車内。胸ポケットに入れたスマートフォンが震えた気がする。自宅に着いて確かめると、電話がかかっていたわけではなかった◆着信がないのに電話の振動と錯覚することを「幻想振動症候群」と呼ぶ。携帯電話がなかった若い頃はポケットベルに振り回された。今はスマホのさまざまな通知音が気になる。出稿日は特にそう。だから、かかってもいない電話に錯覚を起こす。一種の職業病のようなものだろう◆おととい夜、テレビに地震速報が映し出された。家族で顔を見合わせていると、船酔いしそうなゆっくりした揺れが結構長く続いた。宮崎で震度5弱の地震が発生した。昨年8月に続き、南海トラフ地震臨時情報も発表された。なのにおととい、その揺れに対しても身を守る行動をとらなかった。慣れや「佐賀は大丈夫」といった思い込みが無意識に働く◆一夜明けたきのう、ふとした拍子に地震の揺れが起きているように感じた。これは「地震酔い」という。頻度や程度がひどいと問題だが、油断したら駄目という警告と受け止めた。「防災意識」だけで全てを解決できるわけではないが、備えの気持ちを新たにすることは大切だ◆スマホの「幻想振動症候群」も、原稿をもう一度読み返せという忠告かもしれない。天災も失敗も忘れた頃に起きやすい。(義)

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