「安達太郎」と聞けば、どこかのオジサンの名前かと思う。実は山のように立ちのぼる積乱雲の異名で、れっきとした夏の季語。俳人夏井いつきさんの『絶滅寸前季語辞典』によると、ほかにも坂東、丹波、比古、信濃、石見といった土地の姓を持つ「太郎さん」がいらっしゃるとか◆きのうは5日の小寒、寒の入りから数えて4日目で、こちらも「寒四郎」と人の名で呼ばれる。ならばきょうは「寒五郎」かというと、そんな言葉はないらしい。「死」を連想させる「四」の数字を言い換え、厳しい寒さを表現したのかもしれない。夏井さんの解説にそうあった◆折からの強い寒波で、人に見立てて自然の脅威を説いた古人の知恵が身にしみる。年末から雪害に見舞われている北国の人に笑われそうだが、いてつく寒さに不慣れだからこそ用心は怠らないようにしたい◆この時期、入浴時の事故が相次ぐ。冷えた体で湯船につかり、急激な血圧の変動で意識を失うヒートショックである。2023年に家や入居施設の浴槽で水死した65歳以上のお年寄りは全国で6073人。交通事故による年間死者の2倍以上という◆〈寒の水念ずるやうに飲みにけり〉細見綾子。入浴前に一杯の水が予防にいいとか。太郎さんでも四郎さんでもない、たしかな誰かがそばにいてくれたら悲劇は防げるのだろうけど。(桑)

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