山地や農耕地などに生息する比較的身近な猛禽(もうきん)類であり、主としてネズミなどの脊椎動物を食べる肉食性である。
獲物を狩る際、さまざまな行動をとることが知られ、空中で静止(ホバリング)しながら獲物を探したり、急降下して地面すれすれを飛んだりする場合がある。
和名はこの匍匐(ほふく)飛行をすること(=野擦)から来ている、という説がある。
かつてはユーラシア大陸から日本にかけて広く分布しているとされていたが、遺伝子を解析した研究の結果、ヨーロッパのものとアジアのものは別種であると判断され、前者はヨーロッパノスリとして区別されるようになっている。また、最近の研究によると、アジアに生息しているノスリの中でも、日本列島のものと大陸のものとは遺伝的に異なっており、別の亜種とされている。
国内では、本種を含むタカの仲間の渡りが多くの観察者により調査されてきた歴史があり、近年は衛星追跡による個体ごとの渡りの様子も記録されている。こうした調査により、北海道から九州にかけて生息するノスリの渡りの様子が明らかになってきている。
本種の主な繁殖地は北海道の中南部から本州中北部にかけての地域であり、夏の間は北海道やサハリンなどで過ごした後、秋には日本列島を南下し、西日本でも多くの個体が越冬する。
加えて、冬の西日本では、通常よりも色が濃い個体が少数ながら見られるそうで、GPSの発信機を用いた研究により、これらは朝鮮半島から対馬海峡を経て渡って来た大陸由来の越冬個体であることが判明している。
つまり九州北部は、繁殖地や越夏場所が大きく異なる二つの亜種がこの時季に同時に見られる「贅沢(ぜいたく)」な場所であると言えよう。(徳田誠佐賀大農学部教授)