教育は人づくり

 佐賀県の学びの環境が大きく変わろうとしている。県は2029年4月の開学を目指し、佐賀市の佐賀総合庁舎の敷地内に県立大を設置する。進学の選択肢を増やすとともに、人材の育成や確保などを図る県政の目玉施策。県教育委員会では、「唯一無二」を掲げる学校づくりを進めている中、住環境に着目したユニークな施策が目を引く。

佐賀県立大構想、具体化進む

2029年4月開学へ

2028年度の開学を目指す県立大の設置場所になった県佐賀総合庁舎。敷地南側(写真手前)にメインの校舎を新築する=佐賀市八丁畷町

 2029年4月の開学を目指す佐賀県立大構想の具体化が進んでいる。今年は具体化プログラムがスタートし、7月には設置場所を発表。初のハード整備費となる設計関連経費も予算化した。時代の変化を捉え、構想力や実践力を身に付けた人材を育成する。

 具体化プログラムの一環で有識者3人による専門家チームを設置した。大学カリキュラムなど教育に関わるソフト面を中心に県と議論しながら、検討を進めている。

 県は、県立大学での教育内容を、理系(情報・データサイエンス)、文系(経営・マネジメント)の両方を学ぶことができる理文融合型としている。また、県全体を学びのフィールドとし、県内の企業、地域、団体など現場における学習を県内各地で展開する。

 7月、設置場所を佐賀市八丁畷町の佐賀総合庁舎敷地内とすることを発表した。現庁舎を改修し、南側には新築校舎を建設する。27年度に着工。29年4月に改修校舎で開学し、30年4月に新築校舎の利用を始める。
 

 施策の背景には、佐賀県はこの25年間、15歳未満の割合が全国3位以内と高い水準にある一方で、県内に四年制大学が全国最少のわずか2校しかなく、大学進学を機に約3千人が県外流出しているという現状がある。県内高校生の進路の選択肢を増やすほか、県内で活躍する人材の育成と確保、大学間や大学と企業との連携強化によるイノベーション創出などの効果を狙う。

 現在、学生のインターンの受け入れや現場での課題解決型学習などで県立大学に協力する事業所や団体を募集している。5月から募集を始め、既に150を超える企業や団体から応募が集まっている。政策部は「県内のさまざまな分野、業種、年代の方とともに、創り、育て、成長する大学を目指していきたい」としている。

 

県立高校の唯一無二の学校づくり

「住」に着目、県内外から通学しやすく

空き家をリフォームしたシェアハウス「ありこや」の個室=有田町

 県教育委員会では、すべての県立高校において、学校が持つ魅力や強みをさらに磨き上げ、発信することで、県内外からの入学者増を目指す「唯一無二の誇り高き学校づくり」に取り組んでいる。唯一無二の特色ある取り組みに魅力を感じた県内外の生徒が、県立高校へ進学し、その結果、近年、県内から県外の高校に進学する生徒は減少するとともに、県外から県内の県立高校に進学する生徒が増加している。

 そういった背景の中、今回、生徒の住環境に着目したユニークな事業を始めている。唐津の離島の生徒が県内高校に進学できるよう、唐津市内の県職員宿舎の一部を寮として活用することを始めた。また、全国からの生徒を受け入れている有田工業高校では、生徒の住まいとして空き家をシェアハウスに改修した。

 これまで、離島の生徒が寮のある他県の高校を選んだり、進学を機に一家転住し、島を離れるケースがあった。このような状況を踏まえ、離島の生徒が“島とのつながり”を大切にしながら、県内の高校に進学しやすくするため、県職員宿舎を寮として活用することを決めた。

 2025年度からは、離島の生徒だけでなく県外出身者でスポーツで活躍する生徒なども入寮対象とし、県外からのニーズにも対応する。今後は受け入れ環境をさらに充実させるため、26年度からは食堂の運用を始める。

 「住」に関する取り組みは有田工業高校が立地する有田町でも進む。デザイン科、セラミック科などの特色ある学科を持つ同校では、「地域みらい留学」として全国から生徒を受け入れており、現在は東京や広島、鹿児島などから10人が“留学”している。これまで地域の方の協力で住まいを確保してきたが、今後も全国からの入学者が見込まれることから、県教育委員会では、有田町と地域の方々との協働により、空き家を改修し、シェアハウスを整備した。夕食は、町内の飲食店による地元食材を使ったお弁当を提供するなど、留学生が地域の良さや魅力に触れながら生活できるよう工夫をしている。

 教育振興課は「県内外から多くの生徒に県立高校に進学してほしいという思いで取り組んでいる。さまざまな生徒が入学し、お互い刺激し合うことで、生徒の成長につながり、学校の活性化につながっている」としている。

 

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