武雄市役所前で支持を訴える候補者。奥に見えるのはJR在来線と建設中の九州新幹線長崎ルート(一部を画像加工しています)

 「全線フル規格化は現実的ではない。佐賀県として目指しているわけではないので国に見直しを働き掛けることは考えていない」。9月定例県議会の一般質問で、それまでの「議論する環境にない」との見解から一歩踏み込んだ山口祥義知事。山口県政としてこの問題に対する「消極的」な姿勢を明確に示した。

 暫定開業を5年後に控えた九州新幹線長崎ルートはフリーゲージトレイン(軌間可変電車、FGT)の開発が難航し、整備方針を決める与党検討委員会が全線フル規格と在来線の幅を広げるミニ新幹線について検討を開始した。JR九州と長崎県はフル規格を求めるが、佐賀県は追加の実質負担が800億円に上ることから否定的だ。

◆消極姿勢

 しかし、佐賀県内にも沿線となる嬉野、武雄両市を中心にフル規格を求める声がある。山口知事の答弁は、両市がフル規格化に向け地元の財政負担スキームの見直しを国へ働き掛けるよう県に求めたことに対する「NO」の回答だ。

 ある県職員は消極姿勢を解説する。「命や生活と直結するオスプレイ配備や諫早湾干拓の開門、原発再稼働と違い、国と対峙してまで取り組むテーマではないということだ。自分の政策ではないとの意識もある」

 衆院選でも演説で触れられることはなく、論戦は低調だ。佐賀新聞の政策アンケートに対し、自民の岩田和親(44)、古川康(59)両候補はFGT、フル規格、ミニ新幹線、リレー方式のいずれの整備方法も選ばず、国が比較検討を進めているという経過を説明するにとどめた。民進党出身の原口一博(58)と大串博志(52)両候補も自民と同様、いずれの整備方法も選択しなかった。共産の大森斉(62)と幸福実現の中島徹(43)両候補は特急と新幹線を乗り継ぐ「リレー方式」を選んでいる。

 「沿線以外の住民の関心は正直言って高くない。落としどころが見えない問題を今、争点にして議論する意味がない」。ある陣営担当者が本音を吐露する。

 整備新幹線の方針は与党議員のプロジェクトチームが決定権を持つ。国土交通省の職員は地元選出議員への説明や意向確認が欠かせない。「接戦の佐賀の結果は気になる。半年後、政治力が鍵を握る局面が来る」。与党検討委は来春、国がまとめる各整備手法の投資効果や工期などのデータを基に、速やかに結論を得るとしているからだ。

 

◆政治力

 

 さまざまな国策課題を抱える佐賀県。国会議員には県にとって有益な情報を集めたり、県の意思を政府に伝えたり、表裏両面からのアプローチで、より良い解決に導く政治力が期待されている。

 嬉野市の新駅周辺。国道34号をまたぐ橋桁がかかり、日に日に高速鉄道が形を見せている。温泉旅館「大正屋」社長室長の山口剛さん(45)は「開業までにどんな街になるのか」と期待する一方、先行きの見えない状況に対し、何も語らない政治に不満を覚える。「積極的な議論が聞きたい。それによって市民の投票先は変わるはずなのに」=おわり

このエントリーをはてなブックマークに追加