日本ドラフト文学賞の創設を発表した直木賞作家の今村翔吾氏=東京都千代田区

 佐賀新聞社は20日、創刊140周年を記念して直木賞作家・今村翔吾さんが代表理事を務める一般社団法人「ホンミライ」と新たに創設する「日本ドラフト文学賞」(九州電力佐賀支店、佐賀銀行、ミサワホーム佐賀協賛)の概要を発表した。著名作家が選考する既存の文学賞と異なり、即戦力を求める出版社が直接「ドラフト会議」形式で才能を指名・発掘する新たな形をとり、選考過程の動画を公開するなど類を見ない賞となる。21日から作品の募集を開始し、応募締め切りは2025年4月末。

 笹沢左保さん(1930~2002年)の提唱を受け佐賀新聞社などの主催で1993年にスタートし、今村さんらプロの作家を輩出してきた「九州さが大衆文学賞」の意思を受け継ぐ文学賞となる。名誉顧問には、九州さが大衆文学賞の選考委員も務めた唐津市出身の作家北方謙三さんが就く。今村さんは「キーワードは『復活』と『発掘』。佐賀の地から日本全国に羽ばたく作家を生み出すという理念を引き継ぎ、再始動させる」と意義を語る。

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 応募資格は不問で、日本語による長編小説が対象。20作品程度に絞り込み、25年9月中旬に開く最終選考は佐賀市の佐賀新聞社本社を舞台に、プロ野球のドラフト会議さながらに、出版社や映像制作会社など十数社が直接、意中の作品や書き手を指名する。その場でデビューが決まるほか、「育成枠」として指導を受けながらデビューを待つケースも想定している。

 ドラフト会議などの選考過程は、撮影・編集しユーチューブで公開する。応募者の思いや出版社のねらいなどを今村さんの解説を織り交ぜながら人間ドラマとして映像化し、文学賞そのものをエンターテインメント化して新たなファン層の掘り起こしにつなげる。

 他の文学賞と大きく異なるのが、未発表作品に限らず、別の文学賞に応募して受賞に至らなかった作品にも門戸を広げている点。今村さんは「A社とは相性が合わなくても、B社、C社、D社は欲しい作品、ということがあり得る。九州に落ち延びた足利尊氏がもう一度上洛(じょうらく)したように、中央の賞で落ちた作品が日本ドラフト文学賞を通して全国で活躍することも夢物語ではない」と狙いを語る。

 今村さんは、2016年に九州さが大衆文学賞での大賞受賞をきっかけに作家デビュー。同文学賞終了後も佐賀との縁が続き、2023年にはJR佐賀駅に「佐賀之書店」を開店した。10月からは佐賀新聞に小説「未だ本能寺にあり」を連載中。(大橋諒)