妊婦さんが感染症にかかると(胎盤を通して)胎児に感染して重大な病気を起こすことがあります。よく知られているのは風疹ですが、今回はトキソプラズマという原虫の話です。

 トキソプラズマは世界中広く存在しています。最終的な宿主はネコで、ネコが感染すると体内で増殖しオオシスト(卵のようなもの)を糞尿(便)中に大量に排せつして土や野菜などを汚染します。それを口から摂取するとヒトを含む哺乳類と鳥類は中間宿主として感染します。ウシ、ブタ、ニワトリも中間宿主で、通常重大な病気は起こさず、原虫は嚢子(のうし)という形で筋肉などに潜伏します。ヒトが嚢子をもった牛・豚・鶏肉を加熱不十分のまま食べるとそれからも感染します。

 日本人は10~30%がトキソプラズマに感染している(抗体を持っていることで分かる)ようです。ただし、通常ヒトからヒトへの感染はありません。ヒトも中間宿主ですから、免疫力が正常であれば感染しても重大な病気を起こすことはほとんどありませんが、感染歴のない女性が妊娠中に初めて感染すると、自分は気づかなくても胎児には重大な病気を起こすことがあります。特に問題なのは目と脳の病気です。出生時には異状が見つからなくても、成長とともに症状が明らかになってくることがあります。

 感染は、非加熱肉の摂取やネコの排せつ物が付着したものが口に入ることによって起きますので、妊婦さんは注意が必要です。妊娠中はネコがたむろしている場所での土いじりなどは避け、どうしても必要ならば手袋を使用し、手洗いをせずに口や目を触らないようにします。

 また、上記の生焼け肉は食べないように注意します。感染の有無は検査で確認できます。妊婦さんの場合、初感染であることが確認できれば早期の対応が必要です。ネコをペットとして飼育する人たちが増加しています。注意が必要です。

 (佐賀整肢学園からつ医療・福祉センター顧問、佐賀大学名誉教授 浜崎雄平)