『電車で不思議なことによく遭遇して、みんな小刻みに震えました』KADOKAWA

 なぜか珍事件は電車でよく起きていた―。「猫の診察で思いがけないすれ違いの末、みんな小刻みに震えました」の著者・やーこさんの短編集第2弾だ。X(旧Twitter)で公開した人気作のほかに、書き下ろしも10編以上収録されている。

 「電車で赤子が泣き出して謝る母親を援護したら怖い目にあった話」など、電車にまつわる話を中心に集めている。ほかにも「ぶつかりおじさんが現れぶつからないように距離を取ったら怖い目にあった話」や「バイトで怒鳴られ続け情緒不安定になった話」など、タイトルだけ見れば「大丈夫なのか?」と心配になるが、予想の斜め上を行く話が展開されている。

 そこそこ大きいピンチにも遭遇しているが、シュールさを兼ね備えた対応がドミノ倒しのように連鎖反応を起こし、周囲を巻き込んでいく様子はまさに「静かなる無双」だ。独特の空気、勢いのある筆致で織りなす世界観はくせになる。うだるような暑さで気持ちがなえがちなこの時期に読めば、テンションが上がりそうな一冊だ。

 挿絵は前回に引き続き、島根県出身の住職・栖周(すみ・あまね)さんが手がけている。やーこさんの独特な世界観を彩っている。

(KADOKAWA/1430円)

(コンテンツ部・池田知恵)