「医療従事者が家族の危機に協力して、なぜいけないの?」。救急活動中の救命処置を患者の家族にさせたとして5月、有田消防署の男性救急救命士が懲戒処分を受けた件で、佐賀新聞「こちら さがS編集局」(こちさが)に疑問が届いた。「患者の家族」は看護師だったというが、問題はどこにあったのか。命を救う現場のルールとは―。

 伊万里・有田消防本部によるとこの事案は、本来は救急救命士が実施しなければならない救命処置「静脈路確保」を、心肺停止の患者の家族(看護師)に依頼して行わせた。患者の容体は回復したというが、この救急救命士は地方公務員法の「法令等及び上司の職務上の命令に従う義務」などに違反した。

 救急救命士が行う救命処置には、医師の具体的な指示が必要な「特定行為」があり、救急救命士法と同法施行規則で定められている。静脈内に針を留置して輸液路を確保する静脈路確保は医師の指示で看護師も行えるが、特定行為に該当する。

 またその手順は、医療機関や県内各消防局・本部で構成される佐賀県メディカルコントロール協議会で細かく定められている。今回は、契約医療機関の医師から静脈路確保の指示はあったものの、針を刺したのが直接指示を受けていない患者の家族という点が問題だった。

 では現場に居合わせた医療従事者が救命処置に協力するには、どのような条件を満たす必要があるのか。

 伊万里・有田消防本部の見解は「偶然現場に居合わせた人が医療従事者だと告げてきたとしても、資格の証明が難しい。協力を得るため救急救命士が指示医師に連絡することも、医師が資格不明の相手に医療行為を指示することもないと判断している」。ただし「胸骨圧迫やAED(自動体外式除細動器)の使用など、一般の人にも認められた応急手当の範囲ならあくまでバイスタンダー(居合わせた人)として協力が可能」としている。