有田消防署の救急救命士が処分を受けた事案は、傷病者の身近に、医療の知識と技術がある看護師がいた点が一つの特殊条件だった。一方、突然の傷病人に遭遇した医療従事者をめぐっては、救護に当たりやすいよう法的な後ろ盾を求める動きもある。

 日本救急医学会と日本賠償科学会は昨年12月、「救護者保護に関わる法的整理(法制化)についての提言」をまとめた。医師に「飛行機内でのドクターコールに応じるか」を尋ねた過去の意識調査などに触れ、医療資源に制約のある現場でも、居合わせた医療従事者が医療過誤や法的責任のリスクから救護をちゅうちょせずに済むよう、免責を明記した法律を求めている。

 同医学会によると、近い法律は米国や中国などにあり、聖書の一節から「善きサマリア人の法」との通称がある。日本では、急迫する危険から他人を回避させる事務管理を免責する「緊急事務管理規定」が民法にあるものの、救護に当たった医師が賠償請求を受けた事例などもあり、別に法制化を求める動きは数十年前から続く。

 同医学会内「救護者保護に関わる合同検討委員会対応特別委員会」の森村尚登委員長(東洋大教授)は「今回の事例を通じて、例えば家族ではなく偶然居合わせた医療従事者について考えた場合、病院外で遭遇した傷病者への善意の救護行為が、明確に法律で守られていない」と指摘。「医療従事者が救護をためらうのは社会にとって良くない。あらゆる責任を不問にするというわけではなく、背中を押せる仕組みとして法律が必要」と語った。(志垣直哉)