息づく伝統や美肌の温泉郷、パワースポットとして知られる巨石パーク-。佐賀市の中山間地の魅力に引かれ、同市出身の林陽子さん(52)と夫の哲也さん(54)ら一家が東京都から移り住んだ。当初は乗り気ではなかった子どもたちも、豊かな自然にとどまらない奥深さを知り、移住を決意。家族で古民家での暮らしを満喫している。
祈るように岩肌に両手と頭をつけたり、記念撮影をしたり。5月上旬、佐賀市大和町の巨石パーク。険しい山道を登って巨大な岩を巡る愛好家の中に、林夫妻と長女真生さん(23)、長男祐汰さん(17)、次男栞他(けんた)さん(11)の姿があった。
陽子さんは京都市出身の哲也さんと結婚し、東京で30年近く生活した。「いずれは緑豊かな田舎で暮らし、子どもに自然に触れさせたかった」。佐賀市富士町が移住先の候補の一つだったことから、市地域おこし協力隊員に応募。昨年6月に隊員として富士町の宿舎に単身で移り住んだ。
陽子さんの担当は富士町や三瀬村、大和町松梅地区。古湯・熊の川温泉や三瀬村の農家民宿、名尾和紙の魅力に触れ、巨石パークに計400回近く登っている漫画家の宗俊朗さん(84)ら山に関わる人たちの熱量にも刺激を受けた。隊員として活動しながら、一家での移住を目指した。
「東京の方がいい」と話していた子どもたちも、夏休みなどを利用して古湯温泉や巨石パークを訪れると、気持ちに変化が表れた。「佐賀はいい田舎だね」「行ってもいいよ」。哲也さんも「一目ぼれ。ただの田舎ではないとびんびん感じた」。小城市で就職先を見つけ、今春に祐汰さん、栞他さんと陽子さんのもとへ。松梅地区の住民の好意で、古民家を借りられることになった。
家には畑もあり、哲也さんは「仕事も暮らしも大事にしたい」と語る。陽子さんは「人に恵まれ、人生のバランスが取れる場所」。家族との暮らしの中で、改めて佐賀市の魅力を感じている。(円田浩二)