これまで、3大ハラスメントといわれていたパワハラ、セクハラ、アカハラに加えて、近年新たに「カスタマー・ハラスメント(カスハラ)」が問題視されています。医療においても「患者さまは神様です」という発想が行き過ぎて、治療関係も複雑化してきました。この問題を解決するために、治療においては「インフォームド・コンセント」という契約が不可欠。すなわち、お任せ医療から、説明と同意を前提とする医療です。
私はかつて、医療保護入院(家族の同意と精神保健指定医1人の診察で、患者さんの同意が得られなくても入院させられる制度)で入院契約を行ったものの、夜間に家族や親類が病院に押し寄せて「うちの子供は、精神病ではない。すぐに退院させてくれ」と怒鳴りつけ、外来が騒然となったため、警察のお世話になったことがありました。最近では、カスハラ対応の保険に加入する企業も増えていると聞きました。
視点を広げると、カスハラはお客さんの過剰な要求ですが、どちらが正しいかの線引きは難しい。「お客さまはお互いさま」と円満に解決できればと思うのですが。現代の世の中は、世界を巻き込むような悲惨な戦争も現在進行中。怒りの統制が難しくなっているのではないでしょうか。ハラスメントの悩みで受診された純粋な先生が、これまで受けたトラウマを語りつづけ、一度は面談を終わったものの、約10分後に、再度来院された際、「猫の事務室」という言葉を残されました。早速、その言葉の意味を知るために、ネットで調べて、宮沢賢治(1896―1933年)童話集を購入しました。著者が30歳のときの作品で、大正時代の職場のハラスメントを猫に例えて、描写されていました。大正時代にもハラスメントはあったのですね。もしかすると、人間が集団で暮らすようになったころから、ハラスメントはあったのかもしれません。
集団で個人を攻撃する本能は、今も昔も変わらない。アラ探しではなくて、タカラ探しの精神を大切にしたいものです。
(はーと・なう心療クリニック院長、九州大学伊都診療所 佐藤武)