死んだ山田との不思議な日々 まぶしくて切ない青春小説

 「遠きにありて思ふもの」……と、「ふるさと」をうたったのは室生犀星(むろうさいせい)だったか。

 このフレーズだけを知っていて、遠く離れた故郷を懐かしむ詩であると誤解している人も多いと聞くが、この詩の本当の意味は「ふるさとは遠くから思っているくらいでちょうどいい(つまり、あまり帰りたくない場所である)」なのだ。

 

 「青春」にも同じことが言えるかもしれない。真っただ中にいるときは、そんなにも輝いているとは言いがたかった我が青春も、今こうして遠く離れてみると、まぁそれほど悪くなかったような、できることならば戻りたいとすら思ってしまうような、不思議なきらめきに満ちている。……ような気がする。

 そんな気がしてしまうのは、最近読んだ青春小説『死んだ山田と教室』が素晴らしかったからだ。

 

 男子校2年E組の人気者である山田は、夏休みが終わる直前、飲酒運転の車にひかれて亡くなってしまう。2学期の始業式に集まったクラスメートたちは、当然山田の不在を嘆き悲しむ。なぜ、あんなにもいい奴だった山田が死ななければならないのか。いつだってクラスの中心で、勉強ができて、クラスの誰にでも分け隔てなく優しくて……。悲しみに沈む2年E組。すると、どこからか山田の声がするではないか。なんと山田の声は、教室に設置されたスピーカーから聞こえてくる……!

 『死んだ山田と教室』は、影もなく、形もなく、ただ声だけの存在となった山田が、スピーカーに生まれ変わって(?)しまったという、驚きの設定で幕を開ける。

 スピーカーになった山田に話しかけるクラスメートたち。物語は主に会話文で進むのでテンポも良く、まるで自分も2年E組にいるかのような臨場感がある。他愛もないおしゃべりや、教室のにぎやかな様子、学校行事のワクワク感が、読んでいるこちらにもダイレクトに伝わってくる。あまりにもしょうもない会話や男子校あるあるエピソード(?)の応戦に、声をあげて笑ってしまった。

 

 本作は、青春の「苦味」も容赦なく描きだす。クラスの人気者・山田の隠れた一面や、スピーカーの中で「時が止まったまま」の山田と、容赦なく「成長」してゆくクラスメートたちとの対比は、胸をしこたまに打つだろう。

 はたして、スピーカーとなった山田に用意される結末とは……。圧巻のラストをぜひ本書で体験してほしい。間違いなく、今年を代表する青春小説だと断言する。

 「青春」が遠くなってしまった大人たちも、現役バリバリの青春時代を送る皆さんにも、どうか読んでいただきたい。

本間悠さん

2023年12月、佐賀駅構内にオープンした「佐賀之書店」の店長。自身が作った売り場や本のポップなどで注目を集め、SNSのフォロワー数は1万人以上。多メディアにおいても幅広く活躍中

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