多久を拠点に多くの名作を生み出した故・滝口康彦

PICFAでは、アーティストが自由に楽しんで表現を追求している=基山町のきやま鹿毛医院内「PICFA」

 下級武士の悲哀を描き続けた時代小説家、滝口康彦(1924~2004年)。多久を拠点に作品を発表し、生涯のほとんどを過ごした滝口は直木賞候補に6度も選ばれるなど数々の名作を残している。今年は没後20年、生誕100年の節目に当たる。

 佐賀新聞は創刊140周年記念事業の一環として、遺族のご厚意により、最初に直木賞の候補となった記念碑的な作品『高柳父子』を16日付の紙面から10回に分けて掲載する。

 物語の舞台は小城藩。小城藩主鍋島直能の臨終が近づく。末席に控える主人公高柳外記が主君の枕元に近づき、追い腹を切りたいと申し出る。すでに幕府により、追い腹は御法度とされた時代。なぜ、外記は追い腹を切ろうというのか、主君への忠義か、それとも…。

 連載に当たり、挿絵は現代アートの世界で注目を浴びる三養基郡基山町の障害福祉サービス事業所「PICFA(ピクファ)」の所属アーティストたちが担当する。

 カラフルでポップな作風の現代アートと、武士の不条理をえぐり出した時代小説。異色のコラボが、作品世界にどのような新風を吹き込むか、期待が高まる。

 戦時中、徴兵された滝口は、海軍で終戦を迎えた。『高柳父子』について滝口は生前、「太平洋戦争が終わったとき、それまで先頭に立って戦争の旗ふりをしていた人々が、たちまち二十年も三十年も昔からの、自由主義者、平和愛好者づらをしはじめた。その厚顔さに怒りをたたきつけた」と明かしている。(古賀史生)

 ▼連載小説『高柳父子』は16日付からライフ面で、毎週火曜日掲載。

 

 『高柳父子』の挿絵を担当するのは、アートを仕事として取り組む、障害福祉サービス事業所「PICFA(ピクファ)」=基山町=のアーティストたち。自由で個性的なイメージ画が滝口作品の世界観を広げる。

 アート活動を福祉に取り入れるピクファの所属アーティストは、オリジナリティーと完成度の高さが評価を受け、企業とのコラボレーションをはじめ幅広く活動する。挿絵を担当する1人、藤瀬翔子さんはローソンの「からあげクン」のパッケージデザインを手がけるなどの実績を持つ。

 ピクファ施設長の原田啓之さんは、「障害がある人も文化的活動を通して、仕事をしていくことができる」ことを目指す。ピクファ単独の作品展のほか、佐賀県が主催する「関係するアート展」の展示企画を担当するなど、福祉と芸術をつなげ、表現の自由を広げている。

 今回担当する時代小説の挿絵制作については、「滝口さんの作品に関われて光栄。作家を信頼していただいたことがありがたく、みんな楽しんで描いている」という。第1回を描く藤瀬さんは、「挿絵のお仕事をやってみたかったので、うれしかった。小説の雰囲気が伝わるような絵を描きたい」と意気込んでいる。

 作家同士でコミュニケーションを深め、制作活動の刺激になっているとも。「その楽しさやドキドキ感を届けたい」(原田さん)と、連載開始を待ちわびる。(原田隆博)