台湾にある「烏山頭(うさんとう)ダム」は「八田(はった)ダム」とも呼ばれる。日本が台湾を統治していた時代に10年かけて造られた◆建設を主導したのが日本人技師の八田與一(1886~1942年)。工事は難航し1922年、ガス爆発事故で死者が出た。八田は遺族に謝罪しながらも、台湾の人の暮らしを豊かにするからと工事の継続をお願いした◆だが翌年、日本で関東大震災が発生。予算削減で人員整理を余儀なくされる。八田は仕事ができる人を解雇し、できない人を残した。「仕事のできる人は次の仕事を見つけられるかもしれないが、できない人を解雇したら路頭に迷うだろう」との温情。そして台湾中を駆け回り、辞めていく人に次の仕事をあっせんした。日本が震災から復興し、予算が戻ると解雇した人を呼び戻した◆親日家として知られ、4年前に死去した李登輝(りとうき)元総統は、八田の功績を「日本精神を伝えてくれたこと」と語る。日本精神とは「みんなの幸せを考えて痛みを分かち合うこと」。(白駒妃登美=しらこまひとみ=『誰も知らない偉人伝』)◆八田のような貢献もあり、日本に感謝している台湾の人がいる。だから東日本大震災の際、200億円もの浄財が台湾から寄せられた。今度は日本が恩返しする番。台湾で3日、大地震が起きた。できることを考えたい。日本精神は受け継がれているはずだ。(義)
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