職人の世界を取材してきた作家の小関智弘さんは、大正生まれの桶(おけ)職人から「空足(からあし)をしない」という言葉を聞いた。この職人は年季奉公時代の若い頃、親方からやかましく言われたそうである◆空足は無駄足のことで、「空足をするな」とは気配りよく働けという意味。作家になる前、旋盤工として働いていた小関さんも「言いつけられた用事が済んだら、帰りがけには自分で別の用事を見つけてこい」と言われていたという◆この教えは、どんな仕事にも当てはまりそうだ。駆け出し記者の頃、先輩から「取材が終わってもすぐに帰らず、ちょっと雑談をして別のネタを見つけてこい」と指導された。無駄話ばかりで成果はなかったが、目配り、気配りができるようになれば空足は減って一人前に近づく◆週明けから働き始める新社会人は期待とともに、不安も感じているだろう。最初は指示された業務をこなすのに精いっぱいでも「空足をしない」という意識を片隅に置いて頑張れば、きっと成長は早い◆桶職人は「ものづくりのすべてに無駄をするな」という教えと捉え、より効率的な仕事に努めたという。作業のやり方から仕上がりまで、その意識によって磨かれていった。空足をしていないだろうか。新社会人に限らず、経験を積んだ中堅もベテランもそれぞれに顧みて新年度に臨みたい。(知)
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