2013年、モンゴルで撮影した星の軌跡
 

点がつながり“キセキ”に

満天の星空を撮り続ける写真家の野田尚之さん(52)は、
ふるさと武雄市を拠点に国内外を飛び回る。
大手広告代理店・博報堂に25年間勤め、広告を撮り続けた野田さんに、
独立までの経緯や星空の魅力を尋ねた。

 

宇宙への憧れ

博報堂時代の野田さん

 小学生のころ、お年玉でカメラを買うほど写真に興味があった。それからSF小説や「スター・ウォーズ」の影響で宇宙が好きになり、中学生になると初めて夜空にカメラを向けた。小学生の頃からずっとためたお小遣いで望遠鏡も買ったが、当時の野田さんにとって宇宙はまだ遠すぎた。いくら時間をかけても思い通りに撮れなかった。「星は撮れない物なのだ」。次第に、カメラは人や物を撮るため地上を向いていく。
 天文学者になれば宇宙に近づけるはず。高校生になり、どうすればなれるのか自分なりに調べると、日本トップクラスの学力が必要で、観測と撮影と計算の専門分野に分かれて研究しているようだ。全部がやりたいのに、それができないならばもう一つの好きな物、「写真」を突き詰めようと考えた。
 東京工芸大学短期大学部で写真を専攻し、在学中からプロの現場に足を運んで実践的に写真を学んだ。教授の勧めで博報堂の入社試験に挑戦。試験会場には、同じように写真を学んだ学生が約130人。商品や人物のスタジオ撮影、照明などの実技があり、受かったのは野田さんともう1人の2人だけだった。

 

写真家としての”軌跡”

2017年、藤津郡の佐賀天文協会太良観測所で撮影した干潟星雲と三裂星雲

 広告写真はまず“物”を撮ることから始まった。しかし自分が撮りたいのは“人”。人と会話しながら仕事がしたい。会社に所属はしても、カメラマンは個人商店。自分でやりたい仕事は自分でつかむしかない。「自分にはこれだけの物が撮れる。一緒にやりませんか?」-モデルを探して作った作品集を手に、デザイナーへ売り込んだ。

 1987年に入社し、それから仕事、仕事、仕事の日々。再び夜空にカメラを向けたのは、2009年の皆既日食。日本と中国で見られることを知り、天気の都合で中国へ。仕事でそろえた撮影機材が十分にあり、中学時代以来、約30年ぶりに天体望遠鏡と赤道儀を買った。

 皆既日食の当日。昼が夜の闇に包まれていく不思議な感覚を味わいながら、童心に帰ることができた。日食の撮影にも成功。中学生のころどんなに頑張っても撮れなかった天体は、ただの憧れから被写体に変わった。

 それからのめり込んでいく。平日、仕事終わりに東京から300キロ離れた暗がりへ行き、重量数百キロの機材を用意しては、一晩中星を撮り続けた。翌朝仕事でも、星を見ていれば一瞬でも全てを忘れられる。入社以来、20年近く仕事漬けだったからこそ、何より貴重な時間だった。

 -「どう?」。星の写真を同僚に見せると、「図鑑みたいだね」と思わぬ言葉が返ってきた。

 図鑑……、「作品」ではないということか-。

 一晩中撮り続けた何千枚もの星の写真を合成してみた。すると、少しずつ動いていく点が線になり、星の軌跡になった。子どものころから宇宙に憧れ、しかし撮れず、広告写真を撮り続け、再び夜空を撮り始めた自分-今まで歩んだ道のりも、一つの線でつながった。

2009年、中国で撮影した皆既日食
2013年、千葉県で撮影した馬頭星雲
 

独立して佐賀へ

 「会社で広告を撮り続けることの意味とは」
 2011年の東日本大震災を機に、独立を意識し始めた。日本はこのまま暗く沈んでいくのか。日本中が不安なムードに包まれる中、さまざまな思いを巡らせた。
 しかし闇が深ければ深いほど、夜空の星は輝きを増す。こんなときだからこそと、ACジャパンのCM依頼を引き受けた。出演者もスタッフも全員、ボランティアで撮影に臨んだという。
 いつか独立しようとずっと思っていた。大手に25年勤めたキャリアがあっても不安は付いてきたが、12年に独立。仕事場はいつも“現場”なので、拠点は東京でなくてもいい。3年前、ふるさと武雄に戻った。

 

 現在はフラワーアーティストの東信(あずままこと)さんとコラボした企画を続ける。第1回は、アメリカ・ネバダ州のブラックロック砂漠から東さんのフラワーアートに撮影機材を設置し、成層圏まで気球で飛ばして自動撮影。広告のように“紹介”するのではなく、作品として“昇華”させる新しい面白さがあるという。
 小型無人機ドローンの普及にも力を入れ、6月に発足した九州ドローン推進協会の立ち上げメンバーとして、自治体や民間企業にも広くドローンの活用を呼び掛けていく。

 

 

クリエイターを目指すみなさんへ

 自分のやりたいことを見つけ、本当にうまくやれば楽しみながら対価をもらえるようになる。途中で諦めるのが一番よくない。ダメでもいいから好きなことを続けること。色んな物を見て、聞いて、考えないと何も起こせない。

 

プロが教える 天の川の撮り方

 デジタルカメラと三脚を用意する。ISO800~1600、シャッタースピード30秒、絞りを一番小さな数字に設定する。ピントを「∞」にするか手動で星に合わせる。カメラを南に向け、さそり座の左を狙ってセルフタイマーで撮影する。
※暗くて空が開けた場所で撮影すること


のだ・なおゆき
 1965年、武雄市生まれ。武雄高-東京工芸大学短期大学部写真技術科(現・東京工芸大学芸術学部)卒。87年、博報堂に入社し、写真部が独立してできた博報堂フォトクリエイティブ(現・博報堂プロダクツ)に所属。25年間、広告写真や動画を撮り続け、2009年、中国の皆既日食を撮影して天体写真に力を入れ始める。12年に独立し、3年前からふるさと武雄に戻り世界各地で活動している。

 

インタビュー動画

クリエイターズカフェとは

佐賀県出身、または佐賀で活躍しているクリエイターを紹介していきます。(カフェ=人が集まる場、情報交換のできる場所。Visitor(ナンバリング)=訪問者、客。)

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