将棋界史上初の八大タイトル独占を達成した若き天才・藤井聡太八冠。彼の偉業は、歴史に大きく刻まれ、多くの人々の将棋への関心を高めたことだろう。
本書は、藤井八冠の師匠である杉本昌隆八段が、週刊文春で連載したエッセー計100回分をまとめた。自虐を交えたユーモアあふれる文章から、テレビや報道で見る姿とはまた違った棋士たちの一面が見えてくる。
タイトルに「藤井聡太のいる日常」とあり、実際登場回数は多いが、彼がメインというわけではない。弟子たちのことや将棋界でのちょっとした出来事まで、幅広くつづられている。小学生だった藤井八冠をスカウトするために、鏡の前で練習をした…というちょっとおちゃめなエピソードをはじめ、話題はさまざま。藤井八冠と鉄道にまつわる話や“魔女の一撃”ことぎっくり腰など、日常ネタと絡めた話も多い。
将棋ファンはもちろん、なじみがあまりない人でも読み応えを感じる内容となっている。また、どの回も締め方に奥ゆかしさを感じる。「将棋もだが、文章とは生き物」とつづった杉本八段の文章は、まさに血が通っているようだ。
「師弟の数だけ人生がある」。もしいつか藤井八冠が弟子をとる日がくるのなら、またそこから新たな「人生」がひとつ生まれるのだろう。(文藝春秋/1760円)
(コンテンツ部・池田知恵)