私は医師になって25年になりますが、最近つくづく思うのは、医師は体力的にも精神的にもタフさを求められる仕事だということです。若いころにはあまりそういったことを深く考えず、一人前の仕事をできるようにならなければと、がむしゃらにさまざまなことをこなしていたように思います。あるいは、その多忙さに疑問を持たずにこなせるタフさを持ち合わせていたとも言えるでしょうし、多忙であることが当たり前だ、誰もが通る道だと洗脳されていたのかもしれませんね。

 勤務医の労働状況の過酷さは以前からずっと言われてきていたことですが、ここにきて過労死した医師の裁判が取り上げられたこともあいまって、今年4月からは医師の働き方改革として時間外労働の上限が設けられることになりました。正直内容についてはまだまだ医師の過労を認めていると感じますが、それでも何もなかったところから少しずつベクトルをよい方向に進めようとする機運が出てきたことは、進歩と評価すべきかと思います。

 同時に、これまでの過酷な労働を伴う医療の進歩は、タフな医師たちによって支えられてきたことも事実でしょう。われわれはそのような先達(せんだつ)に敬意を払いつつ、しかし後進には少しずつでもよい労働環境を得てほしいとも思っています。

 情報化社会が成熟してきた昨今では、得ておかなければならない医療の知識が増加しているのはもちろん、それに伴い、以前よりも注意を払わなければならないことや気を遣うことが、比べものにならないほど増えています。私自身もそれが「見えざるストレス」としてボディーブローのように効いてくるのを実感しています。

 今の医療界の構造が早々簡単に激変することはないでしょうが、息長く、そしてよりよい医療を提供するためにはどうしたらいいのか、たまに考えながら今日も診療しています。

 (なかおたかこクリニック院長 中尾孝子)