食肉処理施設をつくり駆除イノシシの有効活用を目指す地域おこし協力隊の木下光次さん=多久市の「西多久テラス合同会社」

西多久公民館で開いた味わう会では「ジビエカレー」「しし汁」「ジビエコロッケ」などをセットで販売。予定の100食が完売した

 山間部で駆除したイノシシの肉を有効活用しようとする取り組みが、多久市でじわりと広がりつつある。活動の中心は同市で「地域おこし協力隊」として活動した木下光次さん(73)。自ら食肉処理・加工施設を設立し、市猟友会や飲食店の協力を得ながら「ジビエで売り出し、多久の名物に」と奮闘している。

 木下さんは小城市三日月町出身。ずっと関東で働いてきたが、家族を埼玉県に残し、2021年3月に多久市の地域おこし協力隊員に着任した。西多久農産物直売所「幡船の里」を盛り上げる活動に励むうち、イノシシ被害に手を焼く地域の声を受けて有害鳥獣駆除の仕事も担うようになった。

 市猟友会のメンバー約40人と一緒に山間部でイノシシを駆除。「捕獲しても埋めるしかなく、そのためには深さ1メートル以上の穴を掘らなければいけない。思いのほか重労働で高齢者にはきつい。衛生面の不安もあった」。ジビエとして売り出すため、一念発起して食肉処理場の免許を取得。西多久町八久保地区の借家を改装して食肉処理施設「西多久テラス合同会社」を23年10月に設立した。地域おこし協力隊によるイノシシ処理施設の起業は県内で初めてだ。

 現在はロース肉のスライスやミンチなど加工品約20品を扱う一方、飲食店とともにジビエカレーなどご当地メニューの開発に当たる。2月24日には西多久公民館でジビエ料理を味わう会を開き、予定を大きく上回る来場者が訪れた。木下さんは反響に驚きながら「1時間以内に血抜き、下処理することで特有の臭いを感じることはない。多久の新たな特産品にしたい」と話した。

 すでにペットフードなど新たな販路拡大に取り組んでおり、採算面での安定化を目指す。現在の処理能力は一日1、2頭だが、規模拡大によって「将来的には市内で駆除したイノシシをすべて集約して処理できれば」。協力隊の任期を終えた3月7日以降も多久に残り、イノシシ問題に向き合っている。(市原康史)