
未解決の「二児同時誘拐事件」 話題の本屋大賞ノミネート作
ノミネート作品の選出から大賞作品まで、全て書店員の投票で決定する本屋大賞。参加者は22年12月から23年11月末日までに出版された本の中から、まずは三作品を選出して、推薦コメントと共に投票する。今年2月1日に発表されたノミネート作は、その一次投票で選出された上位10作品である。二次投票は、ノミネート作を全て読み、全作品分のコメントを添えて、上位三作品に順位をつけて投票。そうして大賞が決定するのだ。
選ばれた10作を全て読むのはなかなか骨が折れるが、私はこの期間をいつも心待ちにしている。日頃本を読み続けている書店員たちの投票で選ばれる「推し本」はそれぞれに味があり、こんな面白い本を知らなかったなんて!という発見に満ちている。大賞が発表されてからも、上位10作品を残したまま一緒に売り場に並べている書店が多いのも、「たとえ大賞ではなくとも、この作品たちを読み逃してしまうにはあまりに惜しい」という投票者の気持ちの表れかもしれない。
前置きが長くなったが、今回はノミネート10作品を読んでいる中で出合った『存在のすべてを』を紹介したい。
1991年、二つの誘拐事件が連続して起こり、単独犯か、はたまた同一犯によるものかと世間を騒がせた神奈川二児同時誘拐事件。誘拐された児童の一人はすぐに無事確保されたが、もう一人の児童が“帰ってきた”のは、事件から3年後のことだった。
結局犯人は逮捕されないまま未解決に終わった事件。30年の長きにわたり、その真相を追い求める刑事たちと、新聞記者の執念に胸が熱くなる前半、そして終盤に語られるのは“空白の3年間”に何があったか。あぁ私はこういうのが読みたかったんだよ!と身もだえしながら読み進め、読み終えてもなお、心のさざ波が抑えきれず、その余韻から抜け出せずにいる。『罪の声』を超える、塩田武士氏の新たな代表作。最近ガツンとくる本を読んでいないと思ったら、ぜひ!

本間悠さん
2023年12月、佐賀駅構内にオープンした「佐賀之書店」の店長。自身が作った売り場や本のポップなどで注目を集め、SNSのフォロワー数は1万人以上。多メディアにおいても幅広く活躍中