大学卒業を3カ月後に控えた1986年12月、1学年上の先輩に偶然出会った。大手証券会社に就職したその先輩は、入社1年目の冬のボーナスで100万円をもらったという◆株の話にもなった。「買うべき」と言われたのは、その前年に日本電信電話公社から民営化したNTT株。87年2月に上場し、160万円の初値がついた◆当時は「バブル期」。銀行の貸出金利が大幅に引き下げられ、資金を借りやすくなった企業が本業以外の金もうけに走った。その材料になったのが土地と株。NTT株が財テクブームに火をつけた格好だった。日経平均株価は89年12月末、3万8915円を記録した◆この史上最高値を今月22日、約34年ぶりに更新した。日経平均株価はきのう3万9239円となり、最高値を再び更新した。今は金融機関にお金を預けても利息は少ない。少額投資非課税制度(NISA)など「運用に回した方がいい」という声をよく聞く。稼ぐ手段ではなく、長い目で企業を応援する。そんな視点でお金を回す賢い消費者が増えた気がする◆ところで、冒頭のNTT株購入は「100万円用意できるなら」の条件つきだった。買えるはずもない。その後も結局、バブルの恩恵を感じることはなかった。でも、地に足をつけて進む方がいい。絶対にもうかる株の話など、まずない。(義)

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