頻繁に耳にするので知っているつもりになっているが、よく分かっていない。理系分野が苦手な身には「半導体」もその一つで、実際に見たこともない◆電気を通す金属などは「導体」、電気を通さないゴムやガラスなどは「絶縁体(不導体)」。二つの中間の性質を持つ半導体は電流を制御して、オンとオフの切り替えや一方向への通電、増幅などができる。材料として最も多く使われるのはシリコン。純粋なシリコンはほとんど電気を通さないため、不純物を混ぜて加工するという◆半導体はパソコンやスマホ、車など身の回りの必需品に欠かせない。「産業のコメ」といわれるゆえんである。1980年代に「シリコンアイランド」と呼ばれた九州は、世界最大手の台湾企業の熊本工場が開所するなど、再び半導体投資に沸いている◆文系人間が何となく理解できるのはこの程度まで。次第に思考回路は乱れ、あらぬ方向へ流れていく。自分と異なる考えや価値観を拒絶する「絶縁体」になってはいないか、周りに流されてばかりの「導体」になってはいないかと、わが身を顧みる◆『草枕』の冒頭が浮かぶ。〈山路を登りながら、こう考えた。智に働けば角が立つ。情に棹(さお)させば流される。意地を通せば窮屈だ〉。人の世を渡るには、気持ちの中に制御可能な半導体が必要なのかもしれない。(知)

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