心療内科では、ハラスメントの悩みで受診される方がいまだに多い。強い立場の方が弱い立場の方の「アラ」を探し、攻撃していく姿はみっともないと思われるのだが。私もこれまで数回の経験と日々の臨床経験から得られた大切な言葉は「信」「尊」「愛」である。
信はお互い信頼できる関係、安心してコミュニケーションができる。尊はお互い尊敬できる関係であり、リスペクトできる前提で物事は処理されていくものと思われる。愛は誰もがもっている人類愛である。どんな人でも人としての価値を認めて、偏見に支配されないで会話ができること。例えば、倒れている人を見ると助ける。どれがかけても人間関係は破綻していく。
ささいなトラブルでも、関係が崩れた場合、非常に繊細な性格の持ち主は泣きさけび、飛び込んで受診される。自分のつらさを十分に表現されることで、一時の安心感が得られる。この現象は、会社だけに生じるものではない。学校現場、夫婦関係、親子関係など。さまざまな人と人が交流する場で生じている。みんな疲れているのだろうか。余裕がないのか、自分の判断に過信しているのか、結果として、被害者は職場を離れてしまうことが多い。トラウマ(心的外傷)になると、その場に近づくことすらできず、逃げたくなるような衝動にかられるようである。人間不信に陥り、出勤できなくなる、その町に近づくのさえ、恐怖感をおぼえ、回り道してしまう、などである。
解決法は、非常に難しいが、お互い水平な関係で、自由に意見を述べ合い、理解すること。こんな簡単なことができなくなりつつある現代社会や組織は、いずれ破綻していくのだろうと思われるが、ほとんどの場合、被害者は治療を受けなければならないうつ状態に陥っていくようである。
(はーと・なう心療クリニック、九州大学伊都診療所 佐藤武)