天才がゆえに苦しむ少年 葛藤と成長の野球マンガ

 久しぶりに、心の底から震えがくるような漫画を読んだ。次の展開が気になって、ページをめくり続けてしまう。一巻を購入した翌日には、最新刊まで買いそろえてしまう…。今回は、現在4巻まで発売中の野球マンガ『ダイヤモンドの功罪』を紹介したい。

 主人公・綾瀬川次郎は小学校5年生。スポーツに興味を抱いた彼は、自身が打ち込める競技を探していた。体操、テニス、水泳…しかしどれも長続きしない。それらのスポーツが苦手だからではない。そのすべてにおいて、突出してしまうからなのだ。

 クラブの仲間たちは、ある者は「あんな子がいるなら努力なんて無駄だ」と悲観し、ある者は「次郎君に負けたら、またお母さんに怒られる」と八つ当たりし、そして指導にあたる大人たちは「彼ならジュニアオリンピックに出ることも夢ではないかもしれない」と目の色を変える。ただ楽しくスポーツをしたいだけなのに。

 誰よりも繊細で、自分がスポーツをすることで誰にも傷ついてほしくないと願う次郎は、逃げるようにクラブを転々とする中、とある弱小野球チーム・足立バンビーズのチラシに目を留める。「一緒に野球をしませんか」。チラシの中からほほ笑みかけるチームメートは、彼が心から欲したものだ。かくして次郎は野球と、自分を受け入れてくれるチームと出会い、喜びと才能を爆発させる。小学5年生にして170センチ近い高身長、そして長い長い腕から繰り出される剛速球。初心者にして格の違いを見せつける(次郎にそんなつもりがないところが、また悲しい)次郎は、やはりバンビーズでも周囲を狂わせてゆく…。

 目立ちたくない、誰も傷つけたくない、試合なんてしなくていい。全く新しい天才の描き方は、私のように全く野球に詳しくないものでも夢中にさせる。彼はこの先どうなってしまうんだろう、直接指導に当たるコーチでなくてもワクワクする次郎の今後から、目が離せない。

本間悠さん

2023年12月、佐賀駅構内にオープンした「佐賀之書店」の店長。自身が作った売り場や本のポップなどで注目を集め、SNSのフォロワー数は1万人以上。多メディアにおいても幅広く活躍中

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