長沢蘆雪 「かわいい」を描く筆/東京美術

 長沢蘆雪(長沢芦雪とも表記)という人物をご存じだろうか。江戸時代中期、京都で活躍した画家だ。「足のない幽霊」を描き始めたと言われる画家・円山応挙の弟子であり、「奇想の画家」の一人として知られている。

 本作品は、たけだけしくも愛らしい虎が描かれた重要文化財『虎図襖』をはじめ、ぬいぐるみのようにほわほわした子犬たち、神秘的で美しいクジャクやユニークな表情で描かれる人物画…それらをたっぷりとまとめた画集だ。解説は、東京の府中市美術館の学芸員・金子信久さんが務める。

 自由で、研究肌で、かわいいものが好き―。本書ではそんな蘆雪の作品を、詳しい解説文付きで掲載。彼の作品の「柔らかな形」の表現に注目した。金子さんは「いつの時代にもかわいいものが好きな人はいるが、蘆雪ほど真っ直ぐに絵画に表現した画家はそれまでいなかっただろう」と評している。それを踏まえてページをめくってみると、作品を通じて蘆雪の人となりが見えてくるだろう。師匠である応挙の作品と蘆雪の作品を比較できるページもあり、共通点や違いを見つけてみるのも面白そうだ。

 彼の画業をたどる特別展「生誕270年 長沢芦雪―若冲、応挙につづく天才画家―」が3月31日まで、福岡の九州国立博物館で開催されている。本書を読めば、さらに長沢蘆雪ワールドを深く楽しむことができるだろう。(東京美術/2970円)

(コンテンツ部・池田知恵)