
第6回ほんま大賞を受賞! 70歳女性ふたりの最高の逃避行
私は今年で45歳になる。たった数年前までは徹夜ができた。メガネをかけたまま本を読むことができたし、面白い本に出合ってしまったら、夜通し本を読むこともできた。
今は、全て難しくなってしまった。徹夜をすれば翌日はずっと頭がぼーっとしているし、驚異的なスピードで老眼が進み、先日ついに遠近両用メガネを作成した…が、慣れないので、読書の際はメガネを外してしまう。どんなに面白いと思った本でも、読みながらいつの間にか寝落ちしてしまう(そして、どこまで読んだかわからなくなる)。
佐賀之書店のオープン準備のときは、それはもうひどい有り様だった。終始複数のことを考え続けていると、必ずどこかに穴が開くもので、スマホをなくすこと数回、家の鍵をなくすこと数回、財布を落とすこと数回…。いっそのこと、全てにヒモをつけて体に縛り付けておこうかなと真剣に検討したくらいだ。これは老化だと、素直にそう思えた。
たった数年前にできていたことができなくなるのは、ちょっとした恐怖体験だ。年を取るってこういうことか。この先もっと不便になるのだとしたら、一体私はいつまで働けるのか。“老い”を前に、漠然とした不安だけが募った。
そこで出合ったのが、『照子と瑠衣』である。70歳の照子と瑠衣。二人は学生時代からの親友だ。照子は自分を都合の良い家政婦としか思っていない夫から、そして瑠衣は老人向けマンション内の派閥争いから、手を取り合って逃亡する。逃亡先は、とある別荘地の他人の別荘。優等生だった照子が見せる思わぬしたたかさや、瑠衣のドキドキするような艶っぽさ、年齢を感じさせない行動力。まだまだなんだってできると言ってのける70歳の彼女たちは、45歳の私の手をぐいと引っ張り上げ、希望を見せてくれるのだった。いやぁ、ここで“出合って”しまうのか、こういう本と! 迷わず、2023年のほんま大賞(※)を贈ります。読むタイプの生きる希望、この光が届きますように。
※毎年、本間さんが「一年間に読んだ中で一番面白かった本」に贈る賞

本間悠さん
2023年12月、佐賀駅構内にオープンした「佐賀之書店」の店長。自身が作った売り場や本のポップなどで注目を集め、SNSのフォロワー数は1万人以上。多メディアにおいても幅広く活躍中